海外出版事情 中国 魯迅の懐具合に何を読むか=辻康吾
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知識人というと世間はなんとなく清貧を期待し、知識人もまた金銭を蔑視してみせる傾向がある。だが知識人も人間であり、金が必要であり、豊かな生活を願っている。では中国近代文学の金字塔である魯迅はどうであったのか。
没後80年を超えた魯迅には今なお多くの愛読者があり、多くの研究書が発表されているが、その懐具合まで調べたものは読んだことがなかった。ところが、北京語言学院講師の陳明遠による『文化名人的経済背景』(2007年、新華出版社)には、いくつもの驚きがあった。著者の陳氏は詩人として、中文言語処理の専門家としてすでに著名だが、魯迅に関心をもったのは文革期、農村に送られ、読むものもないままその日記を丹念に読み、そこに記された魯迅の当時の家計を詳細に調べたことに始まるという。その後、康有為、胡適など、多数の知識人の収入、支出を調べることになる。
さらに驚いたのは、文革期には中国革命の応援者として国民党に弾圧され、すべての収入を革命に捧げて極貧に甘んじていたと美化されていた魯迅も、著者の丹念な調査・研究によれば、もちろん金満家ではないものの、実はかなり豊かな収入があったことである。同書によれば魯迅は北京時代、北京大学などの教職、文筆活動による収入があり、古書と骨董(こっとう)の街として知られる北京の瑠璃廠に4800回通い、図書、拓本など3…
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週刊エコノミスト
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