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社名一新し、製品とサービス融合 滝沢利一 バルカー社長 編集長インタビュー/927 

滝沢利一 バルカー社長
滝沢利一 バルカー社長

社名一新し、製品とサービス融合

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 何を作る会社ですか。

滝沢 配管のつなぎ目などから液体や気体の漏れを防ぐシール製品を製造しています。パッキンやガスケットと呼ばれるもので、あらゆる産業で使われています。当社は、日本で先駆けてシール製品の工業化に成功し、シール製品専門の工場を立ち上げました。用途もシールのデパートと言われているぐらい多様です。

車や半導体製造にも

── どんなところに使われているのですか。

滝沢 身近なところでは、自動車のエンジン周りなどに使われています。極めて高いクリーン度が要求される半導体製造工場、原発を含めたエネルギー分野、宇宙・航空産業など、高圧、高温、極低温など厳しい環境にも耐えられる高性能のシール製品を製造しており、他社では作れない分野も多いです。シール製品が腐食すれば、漏れからくる引火によって爆発事故にもつながりかねません。化学プラントで起こる事故では、シール製品に起因するものもあります。一度事故が起きると、環境汚染のほか、地域住民に影響を与えます。漏れを止めるシール製品は、安心・安全というキーワードの中で、その役割が改めて重視されています。

── 製品の強みは。

滝沢 半導体のシリコンウエハーを作る工程では、プラズマが飛び交う中でも耐えられなければなりません。普通のゴムだとすぐに劣化してしまいますが、当社の製品は耐久性、耐熱性に優れており長寿命です。長年の経験から、素材の配合技術、表面の加工技術、量産技術を蓄積しており、顧客のさまざまなニーズに対応しています。

── 樹脂製品も主力事業ですね。

滝沢 化学薬品に強いフッ素樹脂の優れた加工技術を持っており、「バルフロン」という商品名で製造販売しています。主にプラントの配管やタンクの内張りに使われ、日本、台湾、米国、中国に生産拠点を持っています。大きい配管になると、シートを張るのに高い技術を要します。顧客のニーズもあり環境へも貢献できる、シリコンウエハーのリサイクル事業にも取り組んでいます。

── 業績は5期連続の増収増益です。好調の要因は。

滝沢 事業環境がいいのは確かですが、外的要因だけではありません。数年前から開発部隊が顧客と一緒になって製品を開発しており、半導体関連製品は過去の作り込みの成果が今、出ています。

── 海外戦略について教えてください。

滝沢 海外事業を伸ばすためには、日本の製品の輸出販売だけではなく、生産と、場合によってはR&D(研究開発)も海外で行う体制を作らないと、地に足が着いた拡販はできません。戦略商品としたものについては生産拠点を増やしていく方針で、中国で半導体用シール製品の生産拠点を立ち上げようとしています。

── 中国に一番の需要があるのですか。

滝沢 半導体分野の売上比率が30%を超えています。その勢いを伸ばすのに消費地がどこかというと、国策もあってますます中国になるでしょう。中国にサプライチェーンをいち早く構築して、半導体の伸びに乗り遅れない体制を整えたいです。

36歳で社長に就任

── 創業家に生まれ、36歳の若さで社長に就任しました。苦労はありませんでしたか。

滝沢 先代の仕事ぶりをそばで見ていて、私もうまくできると思っていました。いざ就任してみると、責任の重さから身動きができないほどでした。折しも金融バブルがはじけて、赤字に転落しました。正社員を減らし、国内工場の一部を閉鎖して、できるリストラを断行しました。何とか3年後、V字回復を果たしましたが、そのときの苦労は今も忘れません。オーナー系企業ですので、社員は家族同様。社員に退社してもらうのは本当に苦しかった。それを乗り越えているので、リーマン・ショックなどでも、それほど苦労だとは思いませんでした。

── 社名を10月に変更しました。狙いは。

滝沢 9月までは日本バルカー工業でした。すでに外国人社員の比率が6割を超えており、一層グローバル化を進めていく姿勢を示しました。また、「工業」を取ったのは、当社が大きな柱として、製品だけではなく、サービスもつけて売っていく戦略を打ち出しているからです。業績がそこそこいいので、今までと同じやり方でも大丈夫だと考えがちですが、それでは生き残れません。もっと顧客の懐に飛び込んで、「現場では何に困っているのか」を一緒に考えて、その解決に取り組む必要があります。

── サービスとは。

滝沢 うちはシール製品の老舗なので、製品の何番をいつまでに届ける、それで終わりでした。顧客がどういうふうに使って、どうメンテナンスするのかを知るために、顧客の模擬的なプラントを当社の中に作って、現場の人に来てもらっています。そこからヒントを得て、安定した操業を支えるシステムを作っています。例えば、IoT(モノのネット化)を使って、シールの締め付け手順を独自プログラム化し、施工の有効性を確認するシステムです。ユーザー側にも熟練した技能者が少なくなってきており、より充実したサービスを提供していきたいです。

(構成=下桐実雅子・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 大成建設と伊藤忠の2社を経験した後、当社に戻ったところでした。そこでの経験を生かして、タイとインドネシアで生産会社を作る海外事業の展開に取り組んでいました。

Q 「好きな本」は

A 歴史書が好きで、山岡荘八の『徳川家光』全4巻をよく読みます。家光は私と同じ3代目の立場で、苦悩が一致するところがあります。

Q 休日の過ごし方

A 趣味の社交ダンスとラテンダンスに加え、ベンチプレスもやっています。


 ■人物略歴

たきさわ・としかず

 1960年生まれ。法政大学第二高校卒業。法政大学工学部卒業。84年大成建設入社。87年日本バルカー工業入社。91年伊藤忠商事出向。95年取締役に就任、副社長を経て、96年から現職。東京都出身、58歳。


事業内容:化学、半導体など産業用ファイバー、フッ素樹脂、高性能ゴムなどを製造販売

本社所在地:東京都品川区

創業:1927年1月

資本金:139億5700万円

従業員数:1759人(グループ、2018年3月末)

業績(18年3月期、連結)

売上高:475億円

営業利益:53億円

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