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Q&A がんを知る 毎年100万人超ががんになる時代=編集部 がんに勝つ薬

がんの発症には地域差がある(男性の胃がんの場合)
がんの発症には地域差がある(男性の胃がんの場合)

 新たにがんと診断される人は今年約101万人と予想されている。一生のうちに「2人に1人はがんになる」といわれる。身近ながんの基本を知ろう。特集:がんに勝つ薬

 Q 年間にがんと診断される人はどのぐらいいるの?

 A 今年は約101万3000人

 

表1 日本人に多いがん
表1 日本人に多いがん

国立がん研究センターが9月に公表した最新の「全国がん罹患(りかん)モニタリング集計」によると、2014年の1年間に全国で新たにがんと診断された患者数は約86万7000人で、前年より約2万人増加した。男性が約50万1000人、女性は約36万6000人だった。

 部位別では、大腸がんが胃がんを抜いて最も多くなった。胃がんの発症率は近年男性が横ばい、女性は減少傾向で、胃がんの原因となるピロリ菌の感染率が減っているためと見られる。

 男女別では、男性は胃がんが最も多く、女性は乳がんが多い(表1)。

 同集計では、都道府県別のがんの状況も公表している。肝臓がんは西日本に多く、胃がんは日本海側に多いなど地域差も見て取れる(図)。西日本は肝炎ウイルスの感染率が高いことが要因と見られており、日本海側や東北地方に胃がんが多いのは、塩分の多い食事が一因と考えられる。また、乳がんは東京や福岡など都市部に多い傾向が見られる。

表2 死亡数は肺がんが最多
表2 死亡数は肺がんが最多

 日本人の死因のトップはがんだ。16年にがんで死亡した人は37万3000人(男性約22万人、女性15万3000人)。男性は肺がんが約5万人、女性は大腸がんが約2万人でそれぞれ最も多かった(表2)。

 また、国立がん研究センターは2018年の患者数の予測も合わせて公表している。それによると、男女合計で約101万3000人。18年の死亡者数は男女合わせて約38万人と予測されている。

 Q 標準治療って何?

 A 最善の治療

 がんの治療には手術、抗がん剤やホルモン剤などの薬による治療、放射線治療がある。患者の病状やがんのタイプなどによって、これらを組み合わせて治療するのが一般的だ。新しい薬や治療法は、実際の患者に使って効果や安全性を調べる臨床試験の結果をもとに、治療の現場で取り入れるかどうかを検討する。

 臨床試験の結果は、国内外で開かれる学会などで報告される。それらの情報を集めて専門医らが検討し、合意が得られたものが標準治療となる。これらは各がんの治療にかかわる学会などでつくる診療ガイドラインにまとめられており、新しい臨床試験結果などの情報を基に随時、改訂されている。標準治療というと並の治療と考えられがちだが、有効性や安全性が確認された現時点での最善の治療といえる。

 Q 分子標的薬って?

 A がん細胞を狙い撃ちする薬

 抗がん剤の一つだ。抗がん剤の歴史は、第二次世界大戦にさかのぼる。毒ガスの一種が、血液のがんの治療に使えるのではないかと研究が始まった。その後、白金(プラチナ)や細菌などにがん細胞を死滅させる作用があることが分かり、1970年以降、次々と新しい抗がん剤が登場した。一方、これらの薬は正常細胞も攻撃するため、副作用も重い。このため、00年ごろから、「がん細胞を狙い撃ちする薬」として分子標的薬が生まれた。

 がんの遺伝子レベルでの研究が進み、がん細胞の増殖や転移にかかわるたんぱく質や酵素が見つかってきた。分子標的薬は、こうしたたんぱく質や酵素を狙い、その働きを抑えることを目指す薬だ。例えば肺がんでは、90年代前半までは最初の抗がん剤が効かなければ、打つ手がなかった。しかし、02年に分子標的薬「イレッサ」が登場し、その後、次々と新しい分子標的薬が生まれている。

遺伝性のがんが注目を集めるきっかけとなった米女優アンジェリーナ・ジョリーさん(毎日)
遺伝性のがんが注目を集めるきっかけとなった米女優アンジェリーナ・ジョリーさん(毎日)

 Q 免疫の薬って?

 A 代表的なのはオプジーボやキイトルーダなど

 ヒトの体には、ウイルスや細菌などの「異物」が侵入すると、免疫がこれを排除して体を守る仕組みがある。がん細胞も免疫が排除しており、免疫の力を高めてがんを直そうという研究が長く進められてきた。ただし、現時点で、臨床試験などで効果が確認されているのは、肺がんの一部や悪性黒色腫(皮膚がんの一種)などに対する「オプジーボ」や「キイトルーダ」などの免疫チェックポイント薬などごく一部となっている。がんワクチンなどは有効性は確認されておらず、保険診療の対象になっていない。 特集「がんに勝つ薬」

 Q がんは遺伝するの?

 A 遺伝するものもある

 米女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが13年、がんになっていない乳房を予防的に切除したことが話題になり、遺伝性のがんが注目されるようになった。ジョリーさんは、体の細胞ががんになるのを抑える働きのある「BRCA」と呼ばれる遺伝子に生まれつき病的な変化(変異)がある。この遺伝子に変異がある女性の約半数は70歳までに乳がんを、2~4割が卵巣がんを発症する可能性がある。遺伝子の変異は、親から子に50%の確率で受け継がれる。男性に受け継がれれば、前立腺がんや乳がんになる可能性が増える。膵臓(すいぞう)がんとの関連も指摘されている。

 乳がんや卵巣がんの5~10%は遺伝性のがんと考えられている。家族や親族に40歳未満で乳がんになった人がいたり、乳がんになった人が複数いたりすれば、遺伝性が疑われる。遺伝性かどうかは、採血して遺伝子を調べれば分かる。

 大腸がんにも遺伝性のがんがある。大腸にポリープが多発する「家族性大腸腺腫症」、大腸がんだけでなく胃がん、子宮内膜がんなども発症しやすいとされる「リンチ症候群」だ。

(編集部)

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