話題の本 『宇沢弘文の数学』『トランプ貿易戦争』『太平洋戦争 日本語諜報戦』『武蔵野をよむ』
『宇沢弘文の数学』 小島寛之著 青土社 1800円
経済学者・宇沢弘文が唱えた「社会的共通資本」とは、人間が生きるうえで必須であるため市場に委ねてはいけない自然やインフラ、制度を指す。数学もその一つと説く著者は、数学に挫折し、宇沢との出会いを機に経済学者となった。本書は宇沢と数学への愛に満ちている。憂えるのは、数学が学歴社会の選抜に利用され、ビッグデータ解析がもてはやされる現状だ。数学から出発して経済学を席巻したゲーム理論に、宇沢の理論を進化させる望みを託す。(A)
『トランプ貿易戦争』 木内登英著 日本経済新聞出版社 1800円
米トランプ政権が、保護貿易主義を加速させている。進出する外国企業に技術の開示を求める中国に対しては、知的財産権侵害にあたるとして制裁を検討。欧州連合(EU)とも自動車輸入関税問題などで対立が激化し、中国もEUも譲らないため、関税で報復し合う貿易戦争に突入してしまった。その中で日本に起こりうる最悪のシナリオは? 自由貿易協定(FTA)を望む米国に日本はどう臨んだらいいのか。著者はシビアに検討し、近未来図を描く。(K)
『太平洋戦争 日本語諜報戦』 武田珂代子著 ちくま新書 800円
太平洋戦争の際、連合国側が対日諜報戦で日本語を理解できる「言語官」をどのように育成、活用したかを追った貴重な記録だ。例えば米国は陸軍で日系2世や帰米者を登用。日本軍兵士が残した日記を翻訳させて作戦内容などを把握していた。しかし海軍は有名大学の学生を優先。移民に寛容との印象があるカナダも戦時は日系人への敵対心が強く、軍も2世の採用を終戦直前まで拒み続けた。諜報には常に人種問題が影を落としていたとわかり、切ない。(W)
『武蔵野をよむ』 赤坂憲雄著 岩波新書 820円
120年前に書かれた国木田独歩の『武蔵野』。日本近代文学史上の傑作として知られる短編の読解に、まるごと一冊費やした本が現れた。独歩が書いた当時の武蔵野は今の渋谷界隈にあたる。岩波文庫でわずか28ページの作品を読み解くにあたり、テキストの精読はもちろん、渋谷の古地図や植生、水利、独歩自身の日記も照合しながら読んでいく。「東北学」の実践者である著者が、2歳から多摩地区で育った自身のルーツを見つめながら、今度は武蔵野を考察する。(K)