仮想通貨暴落で顕在化した「富の偏在」 普及には「私物化」解消が不可欠=高城泰
ビットコインが11月25日、40万円割れまで暴落した。2017年9月以来の30万円台となり、史上最高値からは83%もの下落となった。暴落のきっかけは、15日起きた時価総額4位の仮想通貨「ビットコイン・キャッシュ(BCH)」の“分裂”騒ぎである。
ビットコインをはじめとする仮想通貨の実体は、例えば「AさんからBさんに1ビットコイン移動した」といった取引記録を次々とつなげていく「ブロックチェーン」というデータの鎖である。しかも単なる取引記録の集積ではなく、仮想通貨ごとにさまざまな機能が付加されたプログラムでもある。
その機能は度々「アップデート(更新)」されるが、それぞれの仮想通貨の開発者たちの間で、更新の中身をめぐり意見の対立が起きることがあり、対立が解消できない場合、異なる機能を持った二つのブロックチェーンに分岐させることがある。
これを、仮想通貨の「ハードフォーク(分裂)」といい、これまでも頻繁に起きている。今回分裂したBCH自体、17年8月にビットコインから分裂して生まれたコインだった。
大口保有者が支配する仮想通貨
両陣営を率いたのは、(1)側が通称「ビットコイン・ジーザス(ビットコインの神)」で知られるロジャー・バー氏、(2)側がビットコインの生みの親「ナカモト・サトシ」を自称するクレイグ・ライト氏だ。いずれもBCHを中心に莫大(ばくだい)な仮想通貨資産を保有する富豪だ。
この「ハッシュ戦争」は、BCH誕生に大きく関与したバー陣営が優勢だったが、一時ライト陣営が逆転。BCHの先行きを危ぶんだ一部取引所が「BCH先物」の取引を急遽(きゅうきょ)停止し、さらにBCH所有者が法定通貨へ資産を退避させる動きも出た。採算度外視のハッシュ戦争で生じた損失を埋めるため、両陣営が保有する仮想通貨を大量売却したとの観測もある。一時100兆円に迫った仮想通貨市場の時価総額は14兆円まで下落した。
名ばかりの「非中央集権」
15日深夜、BCHは二つの仮想通貨へ分裂したが、26日時点でどちらの陣営のコインがBCHを継承するかは決まっていない。新コインゆえの不正送金対策の不十分さもあり、日本の取引所はBCH派生通貨の入出金を止めたままだ。ハードフォークの動機は「改善」だったとしても、結果的に大口保有者2人のけんかがBCHのみならずビットコイン保有者へ被害を及ぼした格好だ。
本来、仮想通貨は「非中央集権」が大きな特徴であり魅力だったはずだ。しかし、BCHの分裂はごく少数の大口保有者の意見により仮想通貨が分裂可能なリスクを露呈させた。BCHは上位0.09%のウォレット(財布)が71.5%の仮想通貨を保有する。「富の偏在」は法定通貨の世界よりもはるかに大きい。ごく少数の大口保有者がコインの大多数を握る構図はビットコインでも同じだ。大口保有者による「私物化」という問題は、仮想通貨普及の大きな壁となって立ちはだかっている。
(高城泰・金融ライター)