米中緊張で加速する世界経済のブロック化
米中間の緊張がさらに高まっている。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)最高財務責任者(CFO)が米国の要請によりカナダで逮捕され、英欧豪など同盟諸国からは「中国製通信機器から情報漏洩の可能性あり」との報道が相次いだ。日本も、政府調達から中国製通信機器を実質的に排除する。
これらの動きは水面下でつながっていると筆者は考える。米国は8月、国防権限法を成立させ、全ての米政府機関や米政府と取引のある企業・団体に対し、中興通訊(ZTE)やファーウェイなど中国政府とつながりのある企業の製品の使用を禁止した。
米国内だけで禁止しても、通信相手側から情報が漏れては意味がない。いずれ同盟国やその取引先まで同様の措置を求めてくるだろうと言われていた。日本政府や通信各社にとっても「寝耳に水」ではなく、根回しは終わっていたとみるほうが筋は通る。
これに対し、中国は西側諸国の措置を非難し、2人のカナダ人を拘束し、日本企業へのロボット発注を凍結するなど対抗姿勢を強める。しかし、こうした「人質」や「見せしめ」は逆効果で、西側は中国を「相いれない文明」だとの確信を強め、距離を置くに違いない。
そもそも米国が中国に対して抱く警戒心は、貿易赤字に対するものではない。ペンス米副大統領が演説したように、「50年近く米国をだまして技術や資金をもらい、覇権国の地位を奪おうとしていることに気付いた」ことだ。
関税引き上げや通信機器排除は「仮想敵に資金・技術・情報を与えない」という当然の戦略で、中国側が譲歩や話し合いの姿勢を見せたところで、南シナ海・尖閣での示威行動や強制収容所などを続ける限り変わらない。
国防権限法では、2020年8月13日以降は中国系5社の製品を社内で使用している企業は米政府機関と取引が一切できなくなる。誰かが個人的に持ち込んだ機材でもアウトになる可能性があるため、米国陣営の国民や企業は「買わない」ことで身を守るしかない。一方、中国も米国陣営の機械や部品に頼ることをやめ、自国の企業育成・市場開拓に励むだろう。
こうして世界は主要産業や市場を自分の経済圏として確保する「ブロック経済」への道を歩むことになる。技術移転や企業買収に対して国家が介入するケースも増えるだろう。ベルリンの壁崩壊以来の大規模なグローバリゼーションは、30年ぶりに反動の時期を迎えた。世界の経済成長は鈍化し、これまでの戦略が通用しなくなる可能性がある。企業もこの流れに適応しなければ、経済ブロック間の争いに巻き込まれることになるだろう。
(明鏡止水)