経済・企業2019年の経営者

日本のIT化を背負う人材育成目指す 玉塚元一=デジタルハーツホールディングス社長 編集長インタビュー/939

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 玉塚社長はファーストリテイリング、ローソンなどの経営を手掛けてきました。デジタルハーツに入ったきっかけは。

玉塚 当社は今年、創業18年目に入ります。創業者の宮沢栄一会長が、ゲームソフトのデバッグ(バグや欠陥を発見する作業)事業を中心に、会社をここまで大きくしてきたのですが、さらに事業を成長させる段階に入り、私に声がかかりました。最初は顧問という形でお手伝いさせていただこうと考えていました。

── 社長を引き受けることを決めました。何がそうさせたのですか。

玉塚 デバッグに取り組むスタッフたちの中には、引きこもりだった若者もいます。最初は登録スタッフとして、週に何度か仲間たちと仕事をするうち、働くことの大切さに目覚め、人として成長していく姿を目の当たりにしました。若者たちの眠っている才能を引き出し、育てていくデジタルハーツの仕事に意義を感じ、経営者として事業を大きくしていく役割を引き受けたのです。

── 会社をどう変えますか。

玉塚 ファーストリテイリングの柳井正(会長兼社長)さんがよく言っていた「3倍のルール」の実践に取り組んでいます。10億円の会社が30億円に、30億円の会社が100億円に、100億円の会社が300億円に成長するときには、会社の仕組みをゼロから作り変えるつもりで大幅な改革をしなければなりません。宮沢会長が取締役会でガバナンスを利かせ、私は「第二創業」を掲げてさまざまな挑戦に取り組んでいます。ホップ・ステップ・ジャンプでやりたいと思っていて、ホップの段階としては、人材の育成とゲーム以外のエンタープライズ領域(企業向けサービス)の開拓を進め、成果も出ています。

── デジタルハーツの主力事業はゲームのデバッグですが、強みは。

玉塚 ユーザー目線でテストを提供できるスペシャリスト集団であることです。2001年の創業以来、1500社を超える顧客との取引を通じ、100万件以上のバグ報告実績を積み重ねました。当社は国内外14拠点のラボを持ち、登録、契約社員など8000人を超える優秀なテスター(バグを見つけるスタッフ)を擁していることが最大の強みです。

高い技術力を証明

── 同業他社と比べて、テスターのスキルはどの程度高いのですか。

玉塚 日本におけるソフトウエアテスト技術者資格であるJSTQBで、アドバンスドレベル(上級)8人、ファウンデーションレベル(基礎)325人が認定(18年10月末時点、デジタルハーツホールディングスグループ総計)を持っています。これは国内最大規模の資格保有者数です。当社のテスターは、本格的なゲーマーやeスポーツの選手など「ゲーム好き」が入り口になっているのですが、自動車やスマートフォン、社会インフラ、企業システムなどさまざまなソフトウエアの分野でも高いスキルを持っていることが証明されました。また、彼らの中にはセキュリティー分野における素地を持っている人もいることから、「デジタルハーツサイバーセキュリティーブートキャンプ」を設け、日本有数のホワイトハッカーである講師から指導してもらうなど、人材育成にさらに力を入れています。

── ゲーム業界はグローバル化も進み、競争も激しくなっています。

玉塚 ゲーム業界もスピードが勝負で、これからはデバッグやグラフィック制作などのアウトソーシングが増えていくことは間違いなく、ビジネスチャンスは広がります。また、ゲームやゲーミフィケーション(ゲームのデザインやメカニズムの応用)という技術が、エンターテインメント以外の領域に広がっています。当社はデバッグはもちろん、受託開発やセキュリティー、メディア運営を通じたマーケティング支援など幅広い技術を持っています。人材を磨き、キラリと光る技術で、ゲーム業界にとってなくてはならない縁の下の力持ちになりたい。

── 非ゲーム領域で有力な市場は何ですか。

玉塚 アプリやウェブサイトをはじめ、IoT(モノのインターネット)関連のソフトウエア、自動運転など有望な分野は多い。スマートフォンを使ったモバイル決済などフィンテックの分野でもチャンスはある。テストやセキュリティーといった仕事は、絶対に必要な仕事です。日本では、大手のITベンダーが法人向けの案件を一気通貫で請け負う構造だったので、アウトソーシング市場はまだ育っていません。しかし、デジタル化の進展とともに、重要性は高まってくるでしょう。

── 今後の経営改革の進め方は。

玉塚 第二創業の現在、仮説を立ててやり始めたことを加速します。すべての仕事を棚卸しして、やるべきことを見極め、大胆に座組みを変えていきます。

 プロジェクトマネジメントを任せられる人材を獲得したり、企業のM&A(合併・買収)も積極的に進めていきます。今年から業務システムの入れ替えが始まり、生産効率も上がります。

── どんな会社を目指しますか。

玉塚 何よりも人が当社の強みです。さまざまな人材がチャレンジし、技術を身に着け、日本のデジタル化に貢献できる「人材輩出プラットフォーム」を目指します。確かな技術と人の力で、ITイノベーションの安全品質を支えていきたい。

(構成=小島清利・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本IBMのコンサルタントとして、ファーストリテイリングの柳井正さんに出会い、大きな衝撃を受けました。その後、ユニクロに飛び込み、貴重な経験を積みました。

Q 「好きな本」は

A イギリス文学者の池田潔氏の著書『自由と規律─イギリスの学校生活』(岩波新書)を読み、チームの勝利のための奉仕の姿勢の大切さを学びました。

Q 休日の過ごし方

A 週5日は早朝にジムに通っています。週末はランニングやゴルフです。


 ■人物略歴

たまつか・げんいち

 1962年生まれ。慶応義塾高、慶応義塾大法卒業。85年旭硝子(現・AGC)入社。98年ファーストリテイリングに入社。2002年同社社長兼COO、05年リヴァンプを共同設立。ローソン社長などを経て、17年ハーツユナイテッドグループ(現・デジタルハーツホールディングス)社長CEO。東京都出身。56歳。


グループ事業内容:デバッグ・システムテストサービス、セキュリティーサービス等

本社所在地:東京都新宿区

設立:2013年10月

資本金:3億68万円(18年現在)

従業員数:791人(18年現在、連結)

業績(18年3月期、連結)

売上高:173億5300万円

営業利益:17億3500万円

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事