小説 高橋是清 第29話=板谷敏彦
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武士による「腕力の時代」から「弁舌の時代」に変貌する日本社会。人脈に恵まれ語学教師、翻訳業などで高収入を得る是清だが、学問を究めたことのないコンプレックスも感じていた。
第29話 農商務省出仕
学校の教師をしながらも米相場に手を出して失敗した是清は、ちょっとした利己的な儲(もう)け心が米の価格を上げて、間接的に世の中の貧しい人たちに大きな迷惑をかけていたことに気がついた。「六二商会」の整理をつけて落ち着いて周囲を見渡せば、いまや友人知人は学を成し、しっかりとした仕事に就いて社会の役に立っているではないか。
是清は心を入れ替えて官僚の途(みち)を選ぶことにした。金銭よりも何か確たる仕事を極めたいと考えたのだ。この時が是清の放蕩(ほうとう)と立身出世の人生の分水嶺(ぶんすいれい)であった。
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週刊エコノミスト
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