工場、血圧も「検知と制御」で事業拡大 山田義仁=オムロン社長 編集長インタビュー/943
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── 血圧計が有名ですが、事業構成をみると、ファクトリー・オートメーション(FA)分野が主力事業ですね。
山田 当社は、センシング(感知、計測)とコントロール(制御)の技術で、工場の製造ラインを自動制御するFA関連事業で成長してきました。いわば「製造業のための製造業」で、FAの制御機器事業が売上高の46%を占めます。ただ、根幹の技術はすべて同じで、身体のセンシングを担う血圧計をはじめヘルスケア機器にも事業を広げてきました。
── 制御機器はどんなところで使われていますか。
山田 最大の得意先は自動車・自動車部品業界です。それにスマートフォンなどデジタル機器の生産ライン、社会インフラ関連、食品包装の計4業界に注力しています。デジタル機器の基板が設計通りハンダ付けされているのかの検知や、ペットボトル飲料の包装工程など多岐にわたる業種で使われています。
── FAといえば、ファナック、安川電機、三菱電機など有名メーカーがある中で、オムロンの強みとは。
山田 一口にFAと言っても、その制御機器にはいろいろな種類があります。例えば、製造現場で起きるさまざまな変化を検出するセンサー類、製造ラインの最適な制御を担うコントローラー、モノを動かしたり組み立てたりするロボットやモーター、安全性を確保するためのセーフティー機器などです。実はこれらすべてを持っているのは当社だけです。生産ラインに必要な制御機器をそろえていることで、顧客は機器ごとの調整、擦り合わせの手間を必要としないことが当社の強みです。
── 大手ロボットメーカーの方が生産ラインをよく知っていて、FAでは有利では。
山田 ロボットメーカーは生産ライン全体を見ているわけではありません。従来、ロボットは人間が出入りしない場所で作業するよう設計されていました。そうしないと危険だからです。ところがいまは時代が変わってきて、ロボットと人間が一緒に働くようになっています。そうなると当社は強い。
── どういうことですか。
山田 例えば、いままでは生産ラインを制御するコントローラーと、ロボットを制御するコントローラーは別々でした。頭脳が二つあったのです。ところが、人間がいる生産ラインでロボットも使うようになると、二つの頭脳を連動させる必要があります。これが非常に難しい。ですが、当社は一つのコントローラーでロボットも生産ラインも制御できるのです。AI(人工知能)の機能を持つコントローラーを業界で初めて投入したことで、こうした作業が可能になりました。
制御機器以外のオムロンの売り上げ構成比(18年3月期)は、スイッチ類やモーター制御などの車載機器15%、家庭用血圧計などヘルスケア13%、電子部品12%、鉄道の自動改札機など社会システム7%となっている。
── ヘルスケア事業の状況は。
山田 1000億円を超える事業規模ですが、一番大きいのが家庭用の血圧計で、世界シェアは50%です。米国、ロシア、ブラジルでもドラッグストアに行くとオムロン製の血圧計が販売されています。
── 山田社長はロシアでの血圧計の販売で業績を上げました。
山田 ロシアでは高血圧の人が多い。ウオッカをよく飲むし、塩辛いものを食べる。寒いから血圧が上がるにもかかわらず、血圧管理が十分ではなかったので、男性の平均寿命は私が欧州に赴任していた2000年代前半は59歳くらいでした。きちんと血圧を管理すれば、脳卒中や心臓発作を予防することができます。そうしたことを現地の高血圧学会などと一緒に取り組むようになり、ロシアでも血圧計は50%のシェアを獲得しています。
── 自動改札機も高シェアです。
山田 日本ではトップで、強みは運賃精算などのアルゴリズム(計算の仕組み)です。例えば電子マネー「スイカ」でいまはどこへでも行けますよね。私鉄駅で乗車してJR駅で出るとか、都内の駅で乗って、新幹線に乗り継いで京都で降りても、運賃精算を間違えることなくできる。今年10月に消費税率が上がり、その日から一斉に運賃が改定されると、JRと私鉄ですべて間違いなくやるのは大変ですが、当社はそれを安定的にやってきました。
── 19年3月期の業績予想を下方修正しました。売上高8800億円の予想を8550億円に、営業利益830億円を720億円に引き下げました。
山田 米中貿易摩擦をきっかけに、中国経済の先行きの不透明感が強くなっています。FA機器は設備投資の動向に影響を受けます。半導体メーカーなどで計画の延期や、規模の縮小、白紙に戻すといった動きがあります。自動車業界でも様子見の動きが出ています。
── 自動車に広がると深刻ですか。
山田 とはいえ底割れする感じではないです。中国の工場でも人手不足で労働者を採用しにくくなっているうえ、スマートフォンなどは細かい部品が多くなり、人間の手では作れない製品が増えています。製造業の課題を自動化で解決する動きは変わらないので、短期には逆風を受けても、業況はまた良くなると思います。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 血圧計の商品企画の仕事をしていました。孫が祖父母の血圧を測るコンセプトの商品を出しましたが、売れませんでした。失敗や挫折も経験しながら、商品を作り出す喜びを感じました。
Q 「私を変えた本」は
A 『WHYから始めよ!』(サイモン・シネック著)です。企業の存在意義とは何か、そこから考えよという影響を受けました。
Q 休日の過ごし方
A ゴルフが好きです。仕事関係なしでプレーするのが好きです。
やまだ・よしひと
1961年生まれ。同志社大学経済学部卒。84年立石電機(現オムロン)入社、2008年オムロン執行役員、10年執行役員常務を経て11年6月から現職。大阪市出身。57歳。
事業内容:電機・電子部品、医療器具、精密機器などの製造販売
本社所在地:京都市
設立:1948年5月
資本金:641億円
従業員数:3万6193人(18年3月末、連結)
業績(18年3月期、連結)
売上高:8599億円
営業利益:859億1000万円