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生産性改革でファミレス再生 菊地唯夫=ロイヤルホールディングス会長兼CEO 編集長インタビュー/944

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 6期連続増収増益を続けた業績が、2018年12月期に約4%の営業減益になりました。

菊地 昨年多発した自然災害の影響がひとつの要因です。インバウンド(訪日外国人観光客)需要が一時減少し、機内食やホテル事業などが影響を受けました。もうひとつは、人手不足の進行のスピードが想定していたよりも速いということです。

── 人件費の上昇ですか。

菊地 今は、人手不足の影響は人件費の上昇という形で表れています。しかし、今後は賃金を上げても採用できない段階が来るかもしれないと考えています。人手不足の進行に対処するには、生産性向上のスピードをもっと上げていかなければなりません。

── どのように対応しますか。

菊地 市場成長性と人材を中心とした供給力の確保の難しさによって、同じ外食事業でもファストフードの「天丼てんや」とファミリーレストランの「ロイヤルホスト」では対応策は変わってきます。

── 「てんや」は苦戦していますね。

菊地 「てんや」は15年10月まで44カ月間連続で前年同月を上回る売上高を上げ、その反動を考慮すれば、心配はしていません。シニアやインバウンドの需要増が期待され、「規模の成長」を目指します。コメや海産物など素材高騰や人手不足といった経営環境に対応するため、外国人従業員でも働きやすい仕組みにする一方、セルフサービスを試験的に導入しています。日本食ブームもあり、国内外の両方で出店を加速します。20年には海外フランチャイズチェーン(FC)など50店、国内の直営・FC店合わせて300店体制を目指したい。

── ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」はどうですか。

菊地 ファミレスは成熟市場であり、付加価値を高める「質の成長」を目指しています。10年に社長に就任してから、旗艦店のロイヤルホストの立て直しに力を注いできました。280あった店舗数を220にまで減らし、残す店舗には徹底的にお金をかけて、スタッフを手厚く配置し、サービス力を向上させてきました。6年間の投資額は90億円を超えます。団塊の世代が定年退職し、時間とお金を使うようになったことがファミレス再建の「追い風」になりました。今後も、付加価値向上への取り組みを加速していきたい。

── 具体的にはどのような付加価値を追求するのですか。

菊地 働き方改革による生産性の向上はサービス力の向上に有効です。この6年間で24時間営業の店舗を減らし、今では完全廃止しています。段階的な営業時間の短縮が、生産性向上と業績改善に成果をもたらしました。例えば、17年は早朝・深夜の営業をやめて、7億円の減収を見込みましたが、逆に7億円の増収を実現したのです。混雑するランチとディナーの時間帯にスタッフを集中的に配置し、サービス力を高めることで客単価の向上と機会ロスの低減につながったからです。

── 外食以外に成長が期待できる分野は。

菊地 ホテル事業とフードサービス(コントラクト)事業です。「リッチモンドホテル」は、04年に設立した「アールエヌティーホテルズ」が全国各地で経営しています。広い客室、充実した設備、ユニバーサルデザインの採用などが特徴ですが、何よりもスタッフのブランドに対するロイヤルティーの高さが強みです。J・D・パワーの18年の満足度調査でビジネスホテル第1位の評価をいただいています。コントラクト事業は、空港や高速道路、コンベンションセンター、社員食堂、病院などに向けて食事サービスを提供しており、インバウンドやシニアの需要増に対応したい顧客の要求に応えています。

── 17年、東京に洋食レストランの研究開発店舗「ギャザリング・テーブル・パントリー馬喰町店」をオープンしました。成果は出ていますか。

菊地 生産性向上と働き方改革をテーマに実験店舗を設けました。完全キャッシュレス、セルフオーダーの仕組みを導入し、レジ締めなどの売り上げ管理業務が向上しました。ここで学んだのは「従業員にとってのキャッシュレス」の大切さです。現金を完全になくすと、カードやスマホ決済をしない来店客には不便です。機械が自動的につり銭を用意するセルフレジで対応すれば、従業員は現金を数える必要はありません。レジ締め不要のPOSレジシステムなどを開発していきたい。

── 調理も効率化していますね。

菊地 長年蓄積したコックの知識・ノウハウをプログラミングし、最新の調理器を使ってボタンひとつで再現します。セントラルキッチンでつくったメニューを冷凍保存すれば、厨房がなくても、レストランが作れます。掃除ロボも導入し、効果を上げたので、ロイヤルホストに展開しています。これらの機能は、店舗の無人化を目指しているのではなく、従業員が人が行うことで価値を生み出すサービスに集中し、それ以外の部分は機械を使って圧縮していくという考え方です。今後は人工知能(AI)を活用した来店予測などテクノロジーの活用を試していきます。

 失敗もあるでしょうが、この積み重ねがイノベーションにつながると信じています。

(構成=小島清利・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 破綻した日本債券信用銀行の頭取秘書を務め、その後、ドイツ証券、ロイヤルホールディングスに転職しました。30代は激動で、まさに私の転換期でした。

Q 「私を変えた本」は

A 山本七平氏の『「空気」の研究』(文春文庫)を日債銀が公的管理になったときに読みました。自分自身が変な「空気」に流されていないか、会社が「空気」に流されていないか、を意識しています。

Q 休日の過ごし方

A 家族との時間を大切にしています。柴犬の「タロウ」と散歩していると、アイデアが浮かびます。


 ■人物略歴

きくち・ただお

 1965年生まれ。早大政経学部卒。88年日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)入行。2000年ドイツ証券入社、03年投資銀行本部ディレクター。04年ロイヤルホールディングス入社、執行役員総合企画部長兼法務室長。10年社長、16年現職。神奈川県出身。53歳。


事業内容:外食、フードサービス、ホテル、機内食など

本社所在地:福岡市

設立:1950年4月

資本金:136億7617万円(2018年12月)

従業員数:2686人(18年12月、連結)

業績(18年12月期、連結)

売上高:1377億円

営業利益:57億円

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