フルラインで小売店への提案を強化 森山透=三菱食品社長 編集長インタビュー/945
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── 三菱食品はどんな会社ですか。
森山 もともと三菱商事グループの食品卸会社6社が合併してできた会社です。卸会社は、加工食品、低温食品、菓子、酒類など分野別に分かれていましたが、2011年に菱食、明治屋商事など3社が合併、12年にさらに3社と合併し、現在の体制になりました。
── 現在の業績は。
森山 18年3月期は売上高は前年比4・2%増の2兆5134億円でしたが、経常利益は同4・6%減の180億円と、利益的には厳しかった。19年3月期は増収増益の見通しですが微増で、それほど伸びる計画ではありません。厳しい状況が続く主な理由は、物流費の上昇です。正直言ってここまで上がるとは思っていませんでした。当社だけでなく、食品メーカーや小売業者と一緒になって対応を考えています。
── そんな中で三菱食品の強みとは。
森山 複数の卸会社が合併したことで、すべての分野の商品をフルラインでそろえていることです。合併前は、個々の会社がそれぞれの分野の売り場しか知らず、小売店の売り場全体を見ることができませんでした。フルラインの会社になって、食品全体に目が行き届き、市場調査を実施してその分析結果を伝えたり、店の棚割りや利益率の管理の仕方などさまざまな提案をできるようになりました。それが高く評価されています。他社でも最近、フルラインの会社が増えており、この方向性は間違っていないと思います。
── 冷凍食品が伸びていますね。
森山 過去8年間で売り上げが2割増えました。冷凍技術が進歩し、商品がおいしくなっているからです。もともと共働き家庭の増加で需要は高まっているうえ、冷凍するので鮮度保持のための添加物が不要なことも好まれる理由です。ただし、食材によって冷凍耐性に差があるため、冷凍で味が劣化するものがあります。それが技術開発で、解凍後もおいしく、食感もよい商品が増えてきました。以前はお弁当の具材に使うというイメージが強かったのですが、最近はチャーハン、おにぎりなどの主食も冷凍食品として人気になっています。
── 最近ではオリジナルブランドの食品を展開しています。
森山 「食べるをかえる からだシフト」というブランドで約50品の商品をそろえています。コンセプトは健康です。普段の食事で糖質を気にする人が3割いるという当社の調査結果もあり、第1弾として「糖質コントロール」シリーズを17年9月から展開しています。レトルトのカレー、中華丼、スープ、うどんやラーメンの麺などを食品会社と共同開発し、全国のスーパーやコンビニなどで販売しています。
食品メーカー各社も自社ブランドで糖質オフの商品を出していますが、それぞれ単品で別々の売り場で売られているので、消費者にはバラバラに見えてしまう。そこで我々は一つのブランドとしてパッケージのデザインもそろえ、店頭で目にとまるような集合陳列できる商品展開を始めました。
── 売れ行きはどうですか。
森山 それまでのように単品で売り場に置かれている商品と比べると、売り上げは最低でも3倍、平均で5倍ぐらいになっています。問屋がつくったブランドとしては異例のヒット商品です。
2月には、第2弾として「たんぱく質シリーズ」を出しました。成人男性は1日60グラムのたんぱく質の摂取が推奨されています。「たんぱく質の効果を効率的に引き出すためには、毎食20グラム以上を分散して摂取するのがよい」という考え方に基づいて商品を開発し、カレー、スープ、みそ汁、ごはんなど12品目を販売しています。
── それ以外の食品はどんな状況ですか。
森山 日本の食品市場は08~09年ごろがピークで、全体の消費量はそれほど伸びていません。市場のパイが拡大しないのは、人口減少や高齢化があります。
昨年の意外なヒット商品はペットボトルコーヒーでした。軽い飲み口でお茶や水のように少しずつ飲めるのが受けたようです。あとは強炭酸飲料と、ブームになったサバ缶。菓子では、カカオの含有量が多いハイカカオ・チョコレートが一昨年まで6年連続で年率5%伸びました。
── 酒類は。
森山 若い世代があまりお酒を飲まなくなっていて、特にビール類、日本酒、焼酎の消費量は前年割れが続いています。唯一伸びているのが、缶チューハイなどのRTD(レディ・トゥ・ドリンク)と呼ばれる手間がかからずそのまま飲める低アルコール飲料です。あとはストロング系で、最近はアルコール度数9%の製品が出てきています。
── 今後の展望は。
森山 市場全体は伸びなくても、健康あるいは簡便などをキーワードにした高機能の商品は値段が高くても売れています。「からだシフト」は、今年9月で販売開始から2年になるので、来年からは本格的にリニューアルを進め、味を変えたり、糖質の内容を変えたり、改善していきます。簡便な商品は、食事の準備の時間を短縮できることに消費者が価値を見いだせば、高価でも売れると思います。商品へのこだわりをいかに消費者に打ち出せるかです。
(構成=村田晋一郎・編集部)
横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 30代の前半はインドネシア、後半は米国で食品事業に携わっていました。海外駐在では人を使う立場でしたので、リーダーシップについて考えさせられました。
Q 「好きな本」は
A 歴史小説をよく読みます。陳舜臣の『小説十八史略』など中国の歴史物が好きです。
Q 休日の過ごし方
A 女房との買い物で外出しています。また1日平均8000歩を目標に歩くようにしています。
■人物略歴
もりやま・とおる
1954年生まれ、福井県立藤島高校卒業、一橋大学経済学部卒業後、77年三菱商事入社、2001年同社食品本部水産ユニットマネージャー、05年ローソン出向、11年三菱商事生活産業グループCEO、13年同社アジア・太平洋統括を経て、16年三菱食品代表取締役社長に就任(現職)。福井県出身、64歳。
事業内容:国内外の加工食品、低温食品、酒類および菓子の卸事業、物流事業など
本社所在地:東京都大田区
設立:1925年3月
資本金:106億3000万円(2018年3月)
従業員数:4427人(18年4月、連結)
業績(18年3月期、連結)
売上高:2兆5134億2700万円
営業利益:167億300万円