舞台 三月大歌舞伎 近江源氏先陣館 盛綱陣屋=小玉祥子
武人の苦悩を描く義太夫物の名作 仁左衛門が立役屈指の大役に挑む
片岡仁左衛門が、3月の歌舞伎座の夜の部で、武人の苦悩を描いた義太夫物(人形浄瑠璃で初演)の傑作「盛綱陣屋(もりつなじんや)」の佐々木盛綱を演じる。
近松半二、三好松洛(みよししょうらく)らの合作による「近江源氏先陣館」の一段。鎌倉時代に設定されてはいるが、モデルは徳川家康と豊臣秀頼が戦った大坂冬の陣。九段からなる作品の「盛綱陣屋」は八段目にあたる。盛綱は徳川方の真田信幸、佐々木高綱はその弟で、豊臣方の真田幸村、和田兵衛は後藤又兵衛、北條時政は家康をイメージしている。
北條時政が実権を握る鎌倉方と源頼家を頂く京方が争う中で、鎌倉方の盛綱の陣屋を京方の和田が訪れ、自分が身代わりになるので、捕虜にされた高綱の子、小四郎を解放してくれと申し出る。盛綱は断り、母の微妙(みみょう)に小四郎を討つように頼む。小四郎への情にほだされた高綱が不本意な戦をしないようにという考えからであった。
その夜。盛綱の陣屋に小四郎の母、篝火(かがりび)が忍び寄り、気配を察した盛綱の女房早瀬は軽挙をいさめる文を結びつけた矢を射る。微妙に切腹をうながされた小四郎は、両親にひと目会ってからと訴える。そこに、時政を倒そうと出陣した高綱が討ち死にした知らせが入る。
高綱の首桶(くびおけ)を持参した時政が陣屋を訪れ、盛綱に高綱の首を検分する首実検を命じる。盛綱が首桶の蓋(ふた)を開けたと同時に小四郎が切腹。首は贋物だが、それを時政に悟らせないために、小四郎は命を懸けたのだ。弟高綱と甥小四郎の思いをくみ取った盛綱は贋首(にせくび)を本物と言い放つ。
時政が去った後、盛綱は偽りの申し訳に自害しようとするが、現れた和田は、それでは高綱の計略が水泡に帰すと諭す。盛綱と和田は戦場での再会を約して別れる。
盛綱は立役(男役)屈指の大役で、戦国大名らしい大きさと、首実検や小四郎の死に臨んでの様子など内面から出る腹芸を必要とされる。母の微妙に対しては、血肉を分けた息子に返り、甘えるしぐさをするところも見どころだ。微妙は老け役の女形では最も重いとされる「三婆」のひとつ。孫に自害をうながす強さと情をあわせ持つ。篝火と早瀬は、敵味方に別れてはいるが、武人の妻。その対照性も見どころだ。和田は豪快さが際立つ役である。
微妙は片岡秀太郎、和田は市川左團次、篝火は中村雀右衛門(じゃくえもん)、早瀬は片岡孝太郎、時政は中村歌六。子役の大役である小四郎に中村勘九郎の長男の中村勘太郎、小三郎に尾上菊五郎の孫で、寺嶋しのぶの長男、寺嶋眞秀(まほろ)が出演するのも話題だ。
(小玉祥子・毎日新聞学芸部)
会期 3月3日(日)~27日(水)
会場 歌舞伎座(東京都中央区銀座4-12-15)
料金 1等席1万8000円 2等席1万4000円
3階A席6000円 3階B席4000円
1階桟敷席2万円
問い合わせ チケットホン松竹(午前10時~午後6時)
TEL0570-000-489(ナビダイヤル)