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CESで元気だった日本の新興企業=藤倉涼

J-StartupはCESをはじめ、複数の海外展示会への出展を支援する(筆者提供)
J-StartupはCESをはじめ、複数の海外展示会への出展を支援する(筆者提供)

 米ラスベガスを舞台に、その年の電子機器の潮流が現れる世界最大級の見本市「CES」。今年は1月8~11日に開催され、メイン会場となるLVCC(ラスベガス会議場)の入り口付近には米インテル、米クアルコム、中国ファーウェイ、韓国LG電子などの主要メーカーが立ち並び、連日の盛況だった。一方、日本の大企業のブースは同じ場所にあってもやや閑散としていたが、ユニークなスタートアップ企業が注目を集めていたのが大きな救いだ。

 毎年、注目の一つとされるディスプレー関連では、シャープが4年ぶりに本格的な出展を行い、16枚のディスプレーを組み合わせて280型相当にした「8K解像度ビデオウオール」を展示。一方、ソニーも同社の最先端技術を結集した8Kブラビア「Z9G」を発表している。

LG電子が自社ブースの入り口に配した曲がるディスプレー(筆者提供)
LG電子が自社ブースの入り口に配した曲がるディスプレー(筆者提供)

 しかし、多くの来場者が訪れたのは8Kではなく、「曲がるディスプレー」を前面に出したLG電子のブースだった。LG電子は、ブース入り口に260枚の曲面ディスプレーを敷き詰め、来場者を呼ぶ映像看板として使っていた。他にもテレビ台の中に巻き取ることができる65インチの大型ディスプレーを展示しており、実際の生活シーンでも十分に使える技術であることをアピール。中国メーカーのRoyole(ロヨル)も折りたたみスマートフォン「FlexPai」を出展しており、多くの来場者が詰めかけるほど大きな注目を集めた。

時期尚早だった8K

 8Kに注目が集まらなかった理由としては、市場がそれほど8Kの高精細画面を求めていないということが考えられる。たとえば、中国のハイセンス社が新たに開発した「ULED XD」というパネル技術では、4K液晶パネルとバックライトの間にフルHD液晶パネルをはさむことで、画面のコントラストの美しさをより強調することに成功している。つまり8Kのように高精細でなくても、価格も安く済む4Kで十分に美しい映像を再現できるのだ。シャープやソニーが8Kを前面に押し出すのは時期尚早だったのかもしれない。

 他の注目技術としては、「5G」(第5世代移動通信システム)と「スマート家電」が挙げられる。

 5Gは昨年のCESでも話題にはなっていたが、技術としていかに素晴らしいかを訴える発表ばかりで、具体的な製品の展示はなかった。しかし、今年は海外企業から5G対応のルーターやスマートフォンといった製品がそこかしこに展示されていた。また、インテルやクアルコムなどの主要半導体メーカーもこぞって力を入れており、世界のネットワークは5Gの舞台に移りつつある。ただ、日本でもさまざまな企業が実証実験を行ってはいるが、今回これといった関連製品は出展されていなかった。

 スマート家電についても、米グーグルの音声アシスタント「グーグル・アシスタント」や米アマゾンの「アレクサ」に対応する製品を、韓国サムスン電子、LG電子、中国ハイアール、中国ハイセンスなど多くのアジア系企業が展示していたが、日本企業の製品を見掛けることはほとんどなかった。

 そもそも、今年の日本企業は、「見せ方」まではよく練られていなかった印象がぬぐえない。8Kなどは技術的には注目に値するものの、それをどのように活用すればよいのかといった点について、来場者へのアピールの仕方が不足していたように思える。大きなカンファレンス(会議)を行った日本企業が少なかったことも、来場者の反応が鈍かった一つの要因だろう。

「フレンチテック」に倣う

 大手が苦戦する一方で、元気だったのが日本のスタートアップ(新興)企業だ。CESでは、2012年から「エウレカパーク」というスタートアップ専門の会場が設けられており、各企業が自社製品をPRしながら、開発面や資金面で新たなパートナーを見つけるチャンスの場としての側面も併せ持つようにしている。今年のエウレカパークには、1200を超える各国のスタートアップ企業が参加しており、この規模で集まる展示会は世界でもあまり類を見ない。

 昨年までは、日本のスタートアップ企業は個別に出展していたが、数多くの企業の中で埋没してしまい、なかなか注目を集めるのが難しかった。そんな中、昨年のエウレカパークで最も注目を集めていたのが、フランスが政府主導でスタートアップを支援する「フレンチテック」の存在だ。マクロン大統領の「フランスをスタートアップ大国にする」という宣言のもとに始まったフレンチテックは、昨年は約270社程度だったのが今年は350社以上にもなり、一大勢力となりつつある。

 日本もこれに倣って、経済産業省が18年6月にスタートアップ企業の育成支援プログラム「J─Startup」をスタートさせたが、この取り組みが功を奏し、今回の盛り上がりにつながったようだ。今回のCESにはJ─Startupから22社が出展した。

 そのうちの1社である「GROOVE(グルーブ) X」社の家庭用ロボット「LOVOT(ラボット)」は、50超のセンサーと深層学習の技術で人間の感情に近い表現を可能にしていることなどが興味を引いていた。同社はソフトバンクのロボット「ペッパー」のプロジェクトメンバーだった林要氏が起業したことで知られる。

 このほかにも、賃貸管理会社アパマンショップとの提携を発表しているtsumug(ツムグ)社のスマートロック「TiNK」や、IoT製品のトータルな開発を行っているShiftall(シフトール)社のビール自動補充サービス「DrinkShift(ドリンクシフト)」などが目を引いた。着眼のユニークさと技術の高さで、他国のスタートアップ企業が見逃している意外な市場があることを示したことが来場者に受けたのではないか。

WHILLの電動車椅子は現在、蘭スキポール空港や英ヒースロー空港などでの実用化に向けた協議を行っている(筆者提供)
WHILLの電動車椅子は現在、蘭スキポール空港や英ヒースロー空港などでの実用化に向けた協議を行っている(筆者提供)

「ヘルステック」に可能性

 そして、今年の新たなキーワードとなりそうなのが、医療と技術を組み合わせる「ヘルステック」である。日本のスタートアップ企業の中でも一番の注目株だったのが、ヘルステック企業WHILL(ウィル)社の次世代電動車椅子だ。あらかじめ登録した地図情報と照合しながら自動運転ができるほか、車体にカメラやセンサーを搭載しており、人にぶつかる前に止まったり、段差をうまく乗り越えたりできるなど、安全面にも配慮されている。

 歩道の利用者が行きたいところへ行けるようにする意味で、“歩道版ウーバー”を目指しているWHILLは、MaaS(移動のサービス化)の一環としても自社事業を捉えている。「老人の自立生活に関心が高い」(WHILL広報)アメリカやイギリス、イタリアなど各国からも注目されているという。世界にも例を見ない超高齢化社会となる日本で、有望なヘルステック企業が生まれる余地は大きい。

(藤倉涼・ITライター)

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