2019年度人事の注目点(下) 伊藤忠「重量級」の2副社長=編集部/130
大手5社の中で、今年唯一社長が交代するのが丸紅だ。柿木真澄副社長が4月1日付で社長に昇格する。柿木氏は同社の収益源である電力出身とあって、社内外から「順当な人事」との評だ。
むしろ社内を驚かせたのは、同時に社長候補に挙がっていた氏家俊明・輸送機CEO(最高経営責任者)の執行役員退任だった。氏家氏は、柿木次期社長より4年若い1984年入社。輸送機や建設機械畑を歩み、ビジネスジェット機「ホンダジェット」の日本代理店の地位を獲得するなど実績は十分だった。しかし、4月1日付で、同社内では「退職予定者や一線を退いた役員が就く」と言われる理事に退く。
伊藤忠商事は、現在は空席の副社長枠に2人を昇格させる。吉田朋史・福田祐士の両専務執行役員で、いずれも鈴木善久社長と同期の79年入社だ。実は、この2人は岡藤正広会長が社長だった2~3年ほど前から、鈴木社長と共に「次期社長候補」との呼び声が高かった。
2016年4月、吉田氏は住生活・情報カンパニープレジデントから米国法人の伊藤忠インターナショナル社長に、福田氏はエネルギー・化学品カンパニープレジデントから、シンガポール会社社長兼アジア・大洋州総支配人へと異動した。この人事については「カンパニープレジデントから海外への転出は、昇格ルートから外れたこと」という負の評価と、「岡藤氏が海外へ修業に出した」という前向きな見方が分かれた。
今回、2人共に副社長に昇格したことについては社内から「不死鳥」「上層部から頑張りが認められた」との声が上がっている。吉田氏は生活産業、福田氏は化学品部門が長く、共に「馬力があり、社内ににらみが利く」との社内評だ。鈴木社長と吉田・福田両副社長の79年入社3人組で経営を重量化する狙いがうかがえる。
副社長を社長と同じ年次にしたことは、経営層の新陳代謝が進んでいないようにも見える。しかし、執行役員レベルでは代謝が進む。早くから「期待の星」とされていた貝塚寛雪(食糧部門長)や野田俊介(CSO=最高戦略責任者)の両執行役員が常務執行役員に昇格する。
また、生え抜き初の女性執行役員として、86年入社の的場佳子氏が調査・情報部長に就く。同社には米弁護士資格を持つ茅野みつる常務執行役員もいるが、こちらはキャリアを評価されての中途採用だ。的場氏の抜てきについて「岡藤会長の意向」とささやかれる。
経団連副会長は住商に
一方で、経団連次期副会長に住友商事の中村邦晴会長が内定した。経団連副会長は業界ごとに1枠があり、各業界を代表する社がトップを送り出している。ただし、現在は変則的に商社は2枠あり、小林健・三菱商事会長と飯島彰己・三井物産会長が就いている。このうち、飯島氏の副会長任期が今年6月にも切れることから、後任の選定が注目されていた。
副会長の商社枠は大手5社が交代で入るのが不文律。順番から言えば、中村氏と伊藤忠の岡藤会長が有力視されていた。両氏とも、「副会長ポストの登竜門」と言われる審議員会(助言機関の役割)副議長にも名を連ねていた。結局、中村氏に決まったのは、セミナーや会議の出席率が高く発言も多いため、事務局からの評判が良かったためとみられる。
住商では、宮原賢次会長(当時)が03~07年に経団連副会長を務めた。宮原氏は永田町との折衝を担う政治担当の副会長を務めて、小泉純一郎首相(当時)とのパイプを培った。時の政権の意向を知ろうと「宮原詣で」に訪れる政財界関係者もいたほどだ。
また、04年に経団連が再開した政治献金関与の論点整理にも当たり、メディアへの露出度も高かった。中村氏も財界活動で、宮原氏のような存在感を発揮できるのか。5月30日の経団連総会を経て副会長に就任する。
(編集部)