本当に使える? ビジネス活用へ企業が研究=花谷美枝
量子コンピューターをビジネスに活用しようと、一部の企業が研究に乗り出した。創薬から資産運用、交通渋滞解消まで、想定される市場は幅広い。リクルートコミュニケーションズでは、グループ会社が運営する宿泊施設予約サイト「じゃらんネット」の検察結果の表示順を量子コンピューターを使って検証した。
同サイトは、検索結果の上位に表示される宿泊施設の顔ぶれによって、ユーザーの利用動向が左右される。価格など詳細条件を入力して自分で並べ替える人は少なく、最初の検索結果の内容が気に入らなければ別のサイトに移ってしまう人も多いという。
じゃらんネットでは宿泊施設の予約状況で計算した人気順に検索結果が表示されるが、特定の地域や類似したタイプの宿泊施設に偏りがちで、多様な利用者のニーズに応えきれない点が課題になっていた。こうしたニーズに応えるには、地域や施設の種類なども加味することが望ましい。だが、計算式が複雑になるため、既存のコンピューターで回答を出すには時間がかかる。
そこでカナダのDウェーブ・システムズ社が開発する「アニーリング方式」の量子コンピューターで計算したところ、特定の地域や宿泊施設のタイプに偏らない検索結果を表示できた。この結果と通常の人気順の結果をそれぞれユーザーに使ってもらうテストを行ったところ、人気度と多様性の両方を加味した方が売り上げが高くなる結果が出た。
アニーリングとはそもそも「焼きなまし」を意味し、刃物などの金属加工で熱したものをゆっくり冷やすことで、内部のひずみを取り除いたりする手法を指す。アニーリング方式の量子コンピューターはこの考え方を応用し、最初は量子力学的な揺らぎを大きくして多くの状態を重ね合わせ、次第に揺らぎを小さくして最適な状態を見つける。複数の組み合わせの中から条件に合ったものを探し出す「組み合わせ最適化問題」に特化したマシンだ。
工場内の効率化で検証
最適化問題は、工場にも応用できる。デンソーは工場内で部品などを運ぶ無人搬送車(AGV)の最適な動かし方を、Dウェーブの量子コンピューターで検証した。AGVはあらかじめ決められた配送ルートを動くよう設定されている。だが、AGV同士が近づくと衝突を避けるために停止し、渋滞を引き起こすことがあり、効率化を進める上で課題になっている。そこで10台の無人搬送車の動かし方を制御する方法を計算したところ、渋滞が発生しない動かし方をシミュレーションできた。
量子コンピューターの実用化に向けた課題を乗り越えようとする取り組みも広がる。今年4月には東京工業大学と東北大学、デンソーや京セラなどが参加してコンソーシアムを設立し、Dウェーブの実機を東北大に置き人材育成や課題解決に関する研究を進める。
量子コンピューターに詳しい野村総合研究所の藤吉栄二上級研究員は、「現時点で量子コンピューターの完全な実用化に至ったとは言いがたい」と指摘する。量子コンピューターを含め、アニーリング型のコンピューターを実際に使いこなすには、問題を計算するためのモデルの作成なども必要になる。
利用料金はDウェーブ、富士通ともに1時間当たり数十万円と言われている。計算にかけたコストに見合う効果があるかどうかの検証も欠かせない。また、認知度を向上させることも課題だ。富士通は18年11月までに100社以上と先行商談を行っているが、「何に使えるのかをより広く知ってもらうために、活用の事例を増やす必要がある」(富士通研究所デジタルアニーラプロジェクトの藤澤久典エキスパート)という。
(花谷美枝・編集部)