週刊エコノミスト Online2019年の経営者

水処理専業大手、民営化が追い風 中村靖メタウォーター社長/947

中村靖 メタウォーター社長 撮影=武市公孝
中村靖 メタウォーター社長 撮影=武市公孝

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── どんな会社ですか。

中村 水道施設で使われる設備の設計や調達、建設などを請け負う会社です。富士電機と日本ガイシの両社の水処理事業を統合して2008年4月に発足しました。母体2社の技術を組み合わせて、浄水場と下水処理場の運営に必要な技術やノウハウ、サービスを提供しています。

── 自社で機器を製造していない?

中村 製造はしないファブレス(工場を持たない)企業です。富士電機、日本ガイシだけでなく、いろいろな企業から機器を調達して、最適に統合するのが当社の仕事です。

── 浄水場、下水処理場で設備がどのように使われているのですか。

中村 浄水場では、ろ過装置にセラミックの膜を張って、不純物を除去したり、オゾンの非常に強い酸化作用を利用して水を消毒します。下水の場合は、人間が排出したものを処理する微生物に分解させる生物処理の工程が多いです。

── 競合他社に比べて優れている点とは。

中村 水処理には機械と電気機器の両方の技術が必要ですが、ともに扱っている事業者は多くありません。例えば、下水処理では、汚泥を高さ20メートルほどもある燃焼炉に入れて燃やしますが、炉内の空気と燃料の加減を電気機器で細かく制御して、汚泥が燃え残らないように効率よく燃焼させなければなりません。そうした技術を持っていることなどが強みです。

── 請け負った事業で、処理が効率化できた事例はありますか。

中村 横浜市の「川井浄水場」の再整備を、資金調達から設計・施工、運転・維持管理までを民間企業が行う「PFI方式」で当社が08年に受託し、14年に最新鋭の施設に再生しました。敷地面積は半分になり、処理能力は1.6倍に増え、電力消費量も従来比40%削減しました。

 昨年末に国会で成立した改正水道法は、浄水場や下水処理場の所有権を自治体に残したまま、運営管理を長期間、民間に委託する「コンセッション方式」の規制を緩和するとともに、市町村が運営する水道施設を都道府県が主導して広域化を促す内容だ。

── コンセッション方式が促進されて、民間に任せて大丈夫かという議論もあります。

中村 水道施設の運営について自治体と民間企業が連携する取り組みで、「PPP(公民連携)」と呼ばれ、コンセッション方式もPPPに含まれます。これまで全国約60カ所の案件のうち当社は約30件に関わっています。ただ、水道法改正のニュースの取り上げられ方を見ると、我々の視点とはちょっと違うという印象です。

── 誤解があるということですか。

中村 コンセッション方式では、民間の事業者が運営権を得るために、数十億円といった規模の対価を自治体に支払います。自治体はそれを元手に水道管を更新することが可能になります。水は命に関わるインフラなので、金もうけをすべきではなく、事業者の利益に上限を設けるべきだと考える人もいます。

 しかし、その場合、運営を受託した企業が、技術革新など企業努力によって原価を減らしても、得る利益は変わらなくなってしまいます。これではコストを下げようとする動機が民間側に働きません。

── コスト削減以外のメリットは。

中村 例えば、都道府県の職員だと他県で仕事するのは難しいですが、民間が運営すれば、それが可能になります。施設の運営管理を広域化すると、効率化が図れます。保守管理の要員が同じ施設にずっといるのではなく、仕事がある場所にその都度、移動したほうが人的資源を有効に活用できるはずです。

 当社は、今後の広域化を視野に入れて、水道施設で働く人を教育する運転員訓練センターを作り、全国各地域に広げる考えです。備品管理や施設の運営に関するノウハウも集約したほうが効果的なので、そうした機能を持つセンターも各地に作る計画です。

── 広域運営で具体的な効果を上げた事例は?

中村 熊本県荒尾市と福岡県大牟田市が共同の浄水場を7年前に作りましたが、当社はその設計・建設、運転、維持管理に関与しています。従来に比べて総コストで16%低減できる見通しです。

── 経営計画で28年3月期に売上高を現在の2倍近い2000億円を予想しています。どのようにして実現しますか。

中村 世界で「水メジャー」と呼ばれている、仏ヴェオリアの売上高が約3兆円、仏スエズの水事業が1兆4000億円、英テムズが3000億円くらいです。当社は世界で30位くらいですが、2000億円になれば世界10位に入ります。世界の強豪に対抗するにはこれくらの規模が最低限、必要です。

 そのため、海外事業では米国を伸ばす考えです。セラミック膜による浄水など当社の得意な技術を展開できるはずです。国内では業界再編が起きる可能性が高いと思います。M&A(合併・買収)によって規模を拡大する必要もあると思います。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 富士電機でエンジニアをしていました。労働組合の役員を2年間した後、原価管理の仕事を任されました。エンジニアを続けたかったのですが、経営者になってその経験が役立ちました。

Q 「私を変えた本」は

A 『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)です。サプライチェーンで最も弱いところにすべてを合わせる「制約理論」を小説仕立てで書いた本です。すごく面白く読めます。

Q 休日の過ごし方

A ボーッとしています。アイデアが生まれます。


 ■人物略歴

なかむら・やすし

 1957年生まれ。青山学院大学理工学部卒。81年富士電機製造(現富士電機)入社、2008年メタウォーター取締役、15年執行役員常務を経て16年6月から現職。さいたま市出身。61歳。


事業内容:浄水場・下水処理場の設備の設計・建設、運転管理など

本社所在地:東京都千代田区

設立:2008年4月

資本金:119億円

従業員数:2961人(18年3月末、連結)

業績(18年3月期、連結)

 売上高:1108億円

 営業利益:67億4500万円

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事