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化粧品の口コミサイト軸に店舗も展開 吉松徹郎=アイスタイル社長 編集長インタビュー/948

吉松徹郎 アイスタイル社長 撮影=中村琢磨
吉松徹郎 アイスタイル社長 撮影=中村琢磨

── どんな会社ですか。

吉松 「@cosme(アットコスメ)」という、化粧品の口コミサイトからスタートし、化粧品や美容の総合サイトを運営している会社です。化粧品を買う前に、使った人の感想や評価を知ることができ、20、30代の女性の3人に2人が毎月利用しています。会員数は500万人を超えています。このサイトを軸にして、通信販売や店舗運営をしており、海外にも展開しています。ベースは「ビューティー×IT」。ビューティー市場にITを加えながら、業界全体を盛り上げるようなビジネスを展開しています。

── 似たようなサイトもあると思いますが、優位な点は。

吉松 データの量や幅の広さが全然違います。3万3000ブランドが登録され、日本で展開する化粧品ブランドはほぼ網羅されています。例えば、アマゾンも楽天も自分たちが販売していない商品の情報は持っていません。アットコスメはメーカーからの新商品情報などをもとに製品データを更新していくと同時に、口コミを書いてくれるユーザーが製品を登録してくれるので、販売網を超えたデータベースをつくれるのが強みです。温泉地で売られている化粧水など、ご当地コスメの口コミ情報もあります。ユーザーが登録してくれた製品について、僕らがその製品のメーカーに情報を提供してもらうという地道な作業を積み重ねて、データが蓄積してきました。

 ですが、もともと口コミサイトをやりたかったわけではありません。あらゆる化粧品の顧客のデータをいかに集めるかを考えてきました。サプライチェーンの末端は店舗ではなく顧客です。レビュー(評価)は使用した人だからこそ書けるのです。消費者の声がマーケットに反映される新しい仕組みをつくりたいと取り組んできました。

── 口コミ情報は化粧品会社にフィードバックしているのですか。

吉松 会社ごとに契約やサービス内容は異なり、ケース・バイ・ケースで細かく対応しています。昨年4月からは月50万円の年間契約で、アットコスメのユーザー購買行動の分析や、アットコスメのサイト内での情報発信を可能とするサービスを開始しています。開発に時間がかかってスタートが遅れてしまいましたが、2020年に800ブランドとの契約を目指しています。

── 消費者がアットコスメで見るメリットは。

吉松 口コミ投稿をベースにしたランキングがあります。アットコスメでは商品に対して、ユーザーが点数をつけています。これらの点数のほか、口コミ内容の信頼性などを総合的に評価し、独自の仕組みでランキングを出しています。商品を購入する際の参考にするなど、ユーザーにとって価値のあるものになっています。僕は20年やっていますが、似たようなサイトは見たことがありません。

── アットコスメの通販や店舗では定価で売っています。にもかかわらずよく売れるのはなぜでしょう。

吉松 (たくさんの種類から選べるという)ユーザーの利便性が良いのだと思います。アットコスメでしか売っていないブランドが増え始めているのは、うちが値引きをしないからです。化粧品は価格が値崩れしにくい特殊な業界ですが、安売りするために、正規の流通ルート以外から仕入れている販売サイトもあります。僕は通販の売り上げを伸ばしたいというよりは、テレビや雑誌が中心の広告宣伝費をネットにシフトさせたい。製品を定価で売ることでメーカーの良いパートナーになれます。

── ネット販売だけでなく、実店舗を東京・新宿など全国に24店出店しています。なぜですか。

吉松 アットコスメのユーザーは増えていますが、一般の小売店では、必ずしもユーザーの評価が高い商品が並べられているわけではありません。消費者のニーズよりも、いかに安く仕入れるか、仕入れたものを売り切るかが重視されているからです。この状況を変えたいと、消費者が求めている商品だけを置く店を、自分たちで構えることにしました。

 07年、東京のルミネエスト新宿に初出店しました。店舗では新しい化粧品に出会える楽しさを味わえるように製品を並べています。アットコスメでの人気商品を中心に置いており、売れ筋ランキングの棚もあります。以前には、デパートでしか買えない化粧品も比較できるようにサンプルを置いていました。一般的には、そこで買えないのだから顧客の不満足につながると考えるでしょうが、僕は満足度は上がると思っていました。ルミネエスト新宿の店舗は、化粧品専門店の単体売上高で日本一の規模です。これは予想以上の結果でした。

── 海外展開は。

吉松 すでに売上高の約25%が海外です。今は店舗展開が中心で、香港と台湾、タイに計10店舗あります。アットコスメは海外の人からの認知も進んでいます。今は日本の化粧品が中心ですが、世界規模の化粧品・美容のデータベースの構築を目指しています。英語圏は「メイクアップアレー」、台湾は「アイトゥルー」という口コミサイトを運営する会社を買収しました。世界中の化粧品や美容の情報を各国語で見られるアプリを提供していきたいです。

(構成=下桐実雅子・編集部)

横顔

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 就職氷河期で就職浪人しました。一番きついところで修業しようと、外資系コンサルタント会社を選びました。地方の公共事業を担当し、寝ないで仕事していましたね。

Q 「好きな本」は

A 『自由であり続けるために、僕らは夢でメシを喰う』(サンクチュアリ出版)という本。中身というよりは表紙のインパクトが強くて、見た瞬間、「自分はどんな夢みてるんだっけ」と胸に刺さりました。

Q 休日の過ごし方

A 家族と過ごします。最近は数学の漫画を読んだり、『週刊少年ジャンプ』などの漫画雑誌も読みます。


 ■人物略歴

よしまつ・てつろう

 1972年生まれ。千葉県・市川学園市川高校、東京理科大学基礎工学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)を経て、99年、アイスタイルを創業。同12月、「@cosme」を開設。社長兼CEO(最高経営責任者)。茨城県出身、46歳。


事業内容:化粧品・美容の総合サイトを運営

本社所在地:東京都港区

設立:1999年7月

資本金:36億2500万円

従業員数:1016人(2018年6月末、連結)

業績(18年6月期、連結)

 売上高:284億7000万円

 営業利益:21億2500万円

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