週刊エコノミスト Online2019年の経営者

半導体のロジック試験装置でも世界トップ 吉田芳明=アドバンテスト社長 編集長インタビュー/949

吉田芳明 アドバンテスト社長 撮影=武市公孝
吉田芳明 アドバンテスト社長 撮影=武市公孝

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── アドバンテストの売り上げの7割を占める「半導体テスター」とは何をする装置でしょうか。

吉田 半導体に電気信号を流して、設計した通りに動くかを調べるものです。半導体には、データを記憶するメモリーと、計算をするロジック(SoC=システム・オン・チップ)があり、テスターにもメモリー用とSoC用があります。テスターはまず回路形成後のウエハー基板の状態の試験で使い、さらに切り出したチップをパッケージ化して最終出荷する段階の試験でも使います。

── 2019年3月期は18年ぶりに最高益を更新する見込みです。その要因は。

吉田 半導体の応用範囲が大きく広がっています。半導体が増えるほど、試験をするテスターの需要も高まっています。当社はもともと「メモリーテスターでナンバーワン」といわれていました。以前は日本の半導体メーカーすべてがメモリーを作っていて、1980~90年代は日本が半導体で世界一でした。その日本の顧客に鍛えられ、当社は技術力を高めたのです。そして、チップを高速に試験する技術を強みに、メモリーテスター市場で世界一になりました。

 しかし、メモリー市場から日本メーカーが撤退し、当社の地位も低下していきました。一方、SoCは欧米の半導体メーカーが強く、当社はSoCテスターでは遅れていました。そこで、11年にヴェリジーという米国のテスター会社を買収し、SoCテスターの強化に乗り出しました。現在は当社のSoCテスターの売り上げの7割をヴェリジーの事業が上げています。地道にシェアの引き上げを進めてきた結果、18年はSoCテスターでもシェアが1位になりました。

── SoCテスターは米国企業との競合が激しいですね。

吉田 競合先の企業は米国の特定顧客への依存度が高く、その顧客の業績が芳しくないため、苦戦しています。一方、当社は世界的に顧客を抱えていることがプラスになりました。SoCテスターの伸びに加え、さらにメモリーも17年から市場が回復し、18年は非常に良い業績を上げることができました。ただし18年は良すぎたので、19年は少し調整が入るのは間違いないと思っています。

── 市況の今後の見通しは。

吉田 メモリーは今、新規投資はストップに近い状況です。17年前半から始まった勢いが18年半ばに止まり、様子見の動きに変わってきています。急成長すればどこかで調整するものです。それに加えて、米中摩擦への警戒感が人々の消費意欲を抑制したことで、メモリー価格が大きく落ちてしまいました。在庫調整が終われば再び生産は始まりますが、次の投資がどのタイミングで始まるのかは分かりません。

── 一方、ロジックは?

吉田 ロジックは製品によってまだ良いものもあれば、減速しているものもあります。当社では、液晶パネルなどを操作するための半導体である「ディスプレードライバーIC」向けが好調です。スマートフォン自体は台数は減るといわれていますが、機能は常に進化していて、半導体が高度化、複雑化するほど、新たに試験をする需要が高まり、スマホに関係するテスターが伸びています。

── 今年2月に米アストロニクス・コーポレーションから、半導体関連製品のテスト事業を最大1億3500万ドル(約149億円)で買収しました。その狙いは。

吉田 半導体のチップは、他のデバイスや部品と組み合わせてシステムを構成しており、システムの段階で機能するかをシステムメーカーが試験をしています。これが「システムレベルテスト」と呼ばれていますが、半導体がすべてのモジュールやシステムに使われるとすれば、システムの試験でも当社の試験技術が生かせると考え、システムレベルテスト事業を買収しました。現在システムメーカーが行っている試験の一部でも取り込めれば、当社にとっては新市場になります。

── 昨秋以降の中国経済の減速により、業種によっては日本企業の業績に大きな影響も出ています。半導体分野ではどうですか。

吉田 当社が付き合っている範囲では、まだそれほど深刻な影響は出ていません。半導体産業は中国のハイテク産業育成策「中国製造2025」でも優先順位が高い分野で、地方政府から補助金が出ている案件がたくさんあるためです。一方、民間企業の設備投資が中心の産業機械などの分野では、市況悪化の影響がより早く出たのではないでしょうか。

── 中国市場の今後をどう見ていますか。

吉田 中国市場は当社では台湾、韓国に次ぐ3番目の規模で、世界のすべての半導体メーカー、半導体製造装置メーカーにとって重要な市場です。米中摩擦が中国での半導体の設備投資にも大きな影を落としていますが、技術覇権をかけた戦いという背景があるので、簡単に収まりそうにありません。ただし、中国はこれまで急成長してきたので、ここで減速したほうが、長い目で見れば健全な成長につながると考えています。

 当社は中国に大事な顧客を多く抱えていますし、彼らのことは応援したい。すでに米国のブラックリストに載った中国の顧客もいて、注文をもらっても出荷できない事態が生じています。そうした事態がこれ以上、広がらないよう願っています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 総合リース会社で米国に駐在し、人事、総務、経理など米国の管理部門をすべて担当していました。若いころに会社全体を見る機会を得たことは今も役に立っていると思います。

Q 「好きな本」は

A 塩野七生さんの『ローマ人の物語』や司馬遼太郎さんの『項羽と劉邦』などの歴史物が好きです。

Q 休日の過ごし方

A 子どもが独立して夫婦二人なので、一緒にお酒を飲んだりおいしい料理を食べたり、二人の時間を大切にしています。


 ■人物略歴

よしだ・よしあき

 1958年生まれ、青森県立八戸高校卒業、横浜国立大学経営学部卒業後、80年日本リース入社、99年アドバンテスト入社、2006年執行役員。取締役兼常務執行役員、取締役兼専務執行役員を経て、17年1月から現職。青森県出身、61歳。


事業内容:半導体・部品テストシステム事業、メカトロニクス関連事業、サービスなど

本社所在地:東京都千代田区

設立:1954年12月

資本金:323億6300万円(2018年12月末現在)

従業員数:4547人(18年9月末、連結)

業績(18年3月期、連結)

 売上高:2072億2300万円

 営業利益:244億8700万円

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