編集部から 米江貴史/花谷美枝
編集部から
東日本大震災から8年。発生当時は毎日新聞大阪本社で朝刊編集方針を協議していた。3日後に編集応援のために東京入りすると、東京電力福島第1原発事故に伴う放射性物質の漏えいが明らかになり、放射線量の高さに不安になった記憶は今も鮮明だ。五感で危険性が測れない不気味さを痛感した。
その後2015年6月、同原発を見学する機会を得た。当時は事故を起こした1~4号機に近づくため、専用の下着と白い防護服に着替えて靴下と手袋を二重に身に着け、特殊マスクを覆った。現場は線量計がなければ危険度が分からない異質の世界だ。異臭がするわけでもなく、極端に暑いわけでもない。五感が利かない怖さを再び感じた。
廃炉には30年以上かかるという。作業が終わっても目に見えない高放射線量の不安、つまり五感が利かない世界からの解放が果たされなければ、本当の復興とは言い難い。
(米江貴史)
東京国立博物館で開催されていた顔真卿(がんしんけい)展に足を運んだ。顔真卿は唐代の中国で活躍した書家。りりしく力強い楷書は今なお新鮮でかっこいい。中国・台湾からの来場者も多く、館内は中国語が飛び交っていた。書の美しさを最も共有できるのは、漢字を使う中国や台湾の人たちだろう。そう考えると親近感が湧いた。
一方、展示会の目玉として日本初公開された「祭姪文稿(さいてつぶんこう)」(台湾の故宮博物院所蔵)の貸し出しをめぐっては、国宝級の作品を日本に貸すことへの不満が台湾のみならず中国本土でも噴出したと聞く。日中の関係は、文化交流であっても難しい面が多い。
7年間お世話になった編集部を去ります。人間の活動すべてが経済だと考えて独自の切り口を探してきましたが、まだまだ力不足です。一生の課題として取り組みます。ありがとうございました。
(花谷美枝)
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