週刊エコノミスト Online始まる!働き方改革法

インタビュー「多様性のある組織が革新を生む。勤務間インターバルの義務化を」=小室淑恵ワーク・ライフバランス社長

    小室淑恵 ワーク・ライフバランス社長
    小室淑恵 ワーク・ライフバランス社長

     900社以上に働き方改革をコンサルティングするワーク・ライフバランスの小室淑恵社長に、関連法の評価や働き方改革を進めるポイントなどを聞いた。

    (聞き手=桐山友一・編集部)

    ── 残業時間の上限規制や年次有給休暇(年休)の取得義務化などを盛り込んだ働き方改革関連法が4月1日から順次施行されます。働き方改革関連法をどう評価しますか。

    小室 ここまで議論を決着させて施行までこぎつけたこと自体、相当に難易度の高いことだったので、とても評価していいと思います。下手をすれば、まったく結論に至ることができない可能性もありました。また、関連法は昨年6月に成立しましたが、多くの法改正では一定の準備期間が必要という理由で施行まで1年以上かかるケースもあります。

     しかし、働き方改革に関して言えば、子どもを産んでも働き続けられる環境を整えなければ、少子化は年々拍車がかかり、出産できる年齢の女性も1年ごとに減り続けていきます。1日、1時間でも早い施行が望まれていたんです。

    ── なぜ、それほど難易度が高かったのですか?

    小室 私は2014年、政府の産業競争力会議の民間議員となりましたが、当時は「ホワイトカラー・エグゼンプション」(頭脳労働に従事するホワイトカラーを労働時間規制から外す制度)導入の議論一色。「人手不足」という理由は当時も今も同じですが、当時は「労働時間に上限を設ければ人手が回らなくなる」という考え方でした。当時は、この国の最大の課題である少子化問題の対策が、長時間労働の是正と結びついていなかったんですね。

     しかし、15年ごろから先進的な取り組みをする経営者が「働き方を変えてみたら、社員の結婚や出産が増えた」といった事例を発信するようになりました。経営者が「このままでは社会だけでなく、企業も持続可能ではない」とマインドを変え始めたんです。その結果、無視され続けていた残業時間の上限規制などが法案に盛り込まれ、政治も支援して労使で合意することができました。

    ── 経営者がマインドを変えた背景は?

    小室 かつての日本は、総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)の割合が増え続ける「人口ボーナス期」でした。この時代には、大量かつ均一な商品やサービスが求められるため、男性ばかりで長時間労働で同質的な組織が大成功します。「お前の代わりはいくらでもいるんだぞ」戦略が機能し、長時間労働に耐えられなければ代わりの人をすぐに充てることが可能でした。

     しかし、現在の経営者の悩みは、とにかく商品やサービスのイノベーション(革新)が起きないこと。社員にいくら発破を掛けても、気合いだけではイノベーションは起きず、価格競争に巻き込まれてしまいます。多くの経営者は、イノベーションが起きない理由が組織の均一性にあることに気付いています。

    ── そして、日本はすでに、生産年齢人口の割合が減る「人口オーナス期」に転換しています。

    小室 そうなんです。人口ピラミッド(男女別に年齢ごとの人口を表したグラフ)を見れば、前から分かっていたことなんですが、4年ほど前が一つの潮目だったと思います。東日本大震災の復興本格化、20年の東京五輪・パラリンピック開催決定で、人手が本当に足りないという認識が広がりました。「お前の代わりがいない」状態になったのです。

     さらに、大手広告代理店の社員の過労自殺事件が起き、労働基準監督署もサービス残業や名ばかり管理職の問題を厳しく指導するようになりました。経営者はようやく、男女ともに採用して短時間で効率よく働き、さまざまな人を内包する多様性のある組織にしたほうがいいと実感してきています。遅すぎない?っていう話なんですけど。

    ── ただ、働き方改革の実践では、多くの企業が試行錯誤しています。

    小室 経営者のコミット(関与)は重要ですが、やり方を細かく指示するべきではありません。現在の現場は経営者が若かったころとはまったく違う。大事なのは、現場が自分たちで働き方を見直せる場を作ること、そして働き方を変えれば評価が得られる仕組みにすること。管理職に対しては、部下への命令型のマネジメントから、コーチング(対話を通した支援)型への切り替えも必要ですね。トップダウンとボトムアップが響き合う企業だけが、働き方改革を上手に進められます。

     経営者がコミットするべきなのは、インセンティブ(報酬)設計です。16年度から働き方改革を始めた不動産管理業の三菱地所プロパティマネジメント(東京)は、15年度と比較して減った分の残業代1億8600万円を全額、社員に還元しています。また、22年度まで減った分の残業代を全額、還元し続ける約束もしています。社員にとって残業代という見入りが減らず、戻ってくるという設計が重要ですね。

    ── 働き方改革関連法の不十分な点や今後の課題は。

    小室 前日の終業時刻から翌日の始業時刻まで一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル」制度が盛り込まれましたが、努力義務にとどまっています。日本生産性本部によれば、日本の労働生産性(17年)はOECD(経済協力開発機構)加盟36カ国のうち20位。労働生産性を下げている要因の一つが、メンタル疾患(心の病気)をめぐる状況のまずさだと考えています。しっかりと睡眠を取ることがメンタルの回復につながるので、早く義務化するべきです。

     また、年休は現在、年5日までしか時間単位で取得できませんが、介護や育児などでもっと柔軟に使いたいというニーズが高く、さらなる法改正が必要です。もう一つ、「女性活躍」は素晴らしいことですが、男性が育児により参加しなければ、女性が疲れ果ててしまいます。育児休業を取得したいと考える男性の新入社員はいまや8割。企業にとって育休の取得率の高さは人材採用のアピールポイントにもなります。政府にも今後、男性の育休取得100%社会への推進を働きかけたいですね。


     ■人物略歴

    こむろ・よしえ

     1975年東京生まれ。日本女子大学卒業後、99年に資生堂入社。2006年7月にワーク・ライフバランスを設立し現職。2児の母。主な著書に『女性活躍 最強の戦略』(日経BP社)、『労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みが分かる』『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(いずれも毎日新聞出版)。


    ワーク・ライフ・バランスが表彰し、壇上に並んだ27社のトップ
    ワーク・ライフ・バランスが表彰し、壇上に並んだ27社のトップ

    働き方改革の先進企業表彰 最優秀賞に大和証券、エムワン

     ワーク・ライフバランスは3月18日、東京・千代田区で企業トップなど向けのセミナー「働き方改革と人生100年時代の企業経営」を開いた。働き方改革に先進的に取り組む企業27社を表彰したほか、自民党厚生労働部会長の小泉進次郎衆院議員や国光あやの衆院議員、東京大学大学院の松尾豊特任准教授、慶応義塾大学の中室牧子准教授を招いたパネルディスカッションも実施した。表彰企業は次の通り。

    【最優秀賞】大企業部門=大和証券(東京)▽中小企業部門=エムワン(三重)

    【特別賞】業界変革部門=大塚倉庫(大阪)▽評価制度部門=住友生命(東京)▽インセンティブ部門=三菱地所プロパティマネジメント(東京)▽ビッグインパクト部門=ジャパネットホールディングス(長崎)▽労働時間部門=さくらインターネット(大阪)

    【優秀賞】あずさ監査法人(東京)▽イーソル(東京)▽えがお(熊本)▽梶川土木コンサルタント(愛知)▽かんぽ生命(東京)▽キャッチネットワーク(愛知)▽サカタ製作所(新潟)▽JSR(東京)▽シップス(東京)▽信幸プロテック(岩手)▽新菱冷熱工業(東京)▽損害保険ジャパン日本興亜(東京)▽豊田通商(愛知)▽日通商事(東京)▽日本郵便(東京)▽PHCホールディングス(東京)▽ベアレン醸造所(岩手)▽丸井グループ(東京)▽UQコミュニケーションズ(東京)▽リクルートマーケティングパートナーズ(東京)

    (50音順)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月15日号

    税務調査 コロナでも容赦なし!16 コロナ「中断」から再開 効率化で申告漏れ次々指摘 ■種市 房子19 元国税局芸人に聞く! さんきゅう倉田「手ぶらでは調査から帰らない」23 国税の「最強部隊」 「資料調査課」の実態に迫る ■佐藤 弘幸24 「やりすぎ」注意! 死亡直前の相続税対策に相次ぎ「待った」 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事