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オーラルケア市場をさらに開拓 掬川正純・ライオン社長

    Photo 武市公孝:東京都墨田区の本社で
    Photo 武市公孝:東京都墨田区の本社で

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 歯磨きなどのオーラルケア(口腔(こうくう)衛生)に力を入れていて、好調だそうですね。

    掬川 オーラルケアの分野は、まだ市場の開拓が十分ではないと思っています。日本人のオーラルケア製品に対する1人当たりの年間支出額は、予防歯科先進国の北欧諸国の6割程度といわれており、大きな開きがあります。洗口液をはじめ関連商品の売り上げを日本でも伸ばす余地があると思っています。ただし日本人の生活習慣を少しずつ変えていかないと市場は広がらないので、予防歯科の必要性や効果を伝えていく取り組みを進めています。

    ── そういう状況で、ライオンの製品の強みは何ですか。

    掬川 当社は年代別に「クリニカ」「システマ」「デントヘルス」のブランドで、それぞれ歯磨きや歯ブラシ、洗口液などの製品を展開しています。まず「クリニカ」は入り口のブランドとして、子どもから若い年代まで、虫歯の予防に主眼を置いています。次の「システマ」は、40代からシニア世代に対して歯周病の予防が中心です。さらに60代や70代になると、歯周病のリスクや病状が重度になっている場合があるので、「デントヘルス」は予防に加え対症療法的な成分を入れています。また、2017年に20代を中心とした若年層向けに口臭対策を施した「NONIO」(ノニオ)ブランドを立ち上げました。世代ごとにブランドの受け渡しをしっかりやっていきます。

    ── オーラルケア製品全体の売り上げは。

    掬川 国内で500億円を超える水準で推移し、年率3~5%の成長が継続できています。日本の人口は減少が始まっていますが、高価格帯にあたる「システマ」や「デントヘルス」の市場は逆に増えていきます。また、予防歯科の意識も上がってきています。オーラルケア製品は今後も成長していくと思います。

    ── 一方で洗剤の事業は少し厳しいようです。

    掬川 衣類用洗濯洗剤の分野は、この10年間で大きなイノベーションが起きていないため、各社の差別化が難しく価格競争に陥りがちになっています。そこで当社は昨年、「トップ ハレタ」という超コンパクト洗剤を発売しました。早く乾き、部屋干しでも外干しと同じような触感が得られる製品ですが、期待したほどのインパクトを市場に与えることができませんでした。現在の厳しい状況から脱却するために、次のイノベーションを仕込んでいます。

    ── いろいろな製品を出していますが、歯磨きの「クリニカ」などブランドのイメージが強く、あまりライオンというメーカーを意識することがありません。

    掬川 コミュニケーション戦略としてブランドを先に立てていますので、ライオンの製品だとすぐに分かることは少ないと思います。特に薬品については、解熱鎮痛薬の「バファリン」や胃腸薬の「スクラート胃腸薬」などがありますが、当社の製品だとはあまり知られていません。

    ── 海外事業はどのように展開していますか。

    掬川 現在は8カ国・地域で事業展開しています。昨年は売り上げの伸びは例年より低く前年比2%台の増加にとどまりましたが、利益は約1・5倍に拡大しました。その要因は、中国事業の売り上げを少し抑えて収益構造改革を優先したためです。今年からまた売り上げを伸ばしていきます。

    ── 中国では何が売れているのですか。

    掬川 国によって展開する製品の構成は異なっていますが、今の中国の主力事業はオーラルケアです。そこからビジネスを拡大していく方針です。中国の歯磨きの市場規模は当社の推計では約4300億円で、そのうち日本製品は約150億円に過ぎませんから、成長の余地は大きいです。

    ── 今後の見通しは。

    掬川 成長領域はアジアを中心とした海外です。そして海外展開で武器になるのは、当社が「日本生まれの会社」であることです。特にアジアでは、「メード・イン・ジャパン」や「ボーン・イン・ジャパン」は大きな信頼感を獲得できる強みですし、これを使わない手はありません。

     今年はラグビーのワールドカップが、来年は東京五輪・パラリンピックが開催され、訪日外国人が増えると思います。日本で当社製品を試してもらい、帰国後にネット通販などを含む輸出品でリピーターになってもらう。そして最終的には現地生産品の購買に結びつけ、売り上げを増やしていきます。例えば、既に中国には現地工場があるので、「メード・イン・チャイナ」の製品で、「クリニカ」や「システマ」など当社ブランドを展開する流れを広げたいと思います。

    (構成=村田晋一郎・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A 商品開発の研究員で、手がけた製品を初めて世に出したのが30代前半でした。

    Q 「好きな本」は

    A 『シリカと私』(G・B・アレクサンダー)です。デュポン社の研究員が日常をつづった本ですが、シリカの研究をしていた頃に読んで仕事の楽しさを改めて感じました。

    Q 休日の過ごし方

    A 鉱物コレクションが趣味で、古い鉱山跡や山に入って鉱物を採集し、自宅に飾っています。


     ■人物略歴

    きくかわ・まさずみ

     1959年生まれ。神奈川県立小田原高校卒業、東京大学農学部卒業後、84年ライオン入社。2012年取締役、常務取締役、代表取締役専務を経て、19年1月より現職。神奈川県出身、59歳。


    事業内容:歯磨き、歯ブラシ、せっけん、洗剤、ヘアケア・スキンケア製品、クッキング用品、薬品等の製造販売など

    本社所在地:東京都墨田区

    設立:1918年9月

    資本金:344億3372万円(2018年12月末現在)

    従業員数:6941人(18年12月末、連結)

    業績(18年12月期、連結)

     売上高:3494億300万円

     営業利益:341億9600万円

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