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モーターに変電、電気のプロ集団 三井田健・明電舎社長

Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都品川区の本社で
Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都品川区の本社で

Interviewer(藤枝克治・本誌編集長)

── 電気自動車用のモーターやインバーターに注力して三菱自動車に納入しています。

三井田 当社は明治30年、製糸機械や脱穀機など産業用のモーターで創業した会社で、そのDNAを引き継いでいます。その後、自動車が普及するとモーター技術を応用して、自動車の燃費を測るための試験装置「ダイナモメータ」を開発し、自動車メーカーとパイプを作りました。また、モーター駆動では周波数を自在に変化させて回転数を制御するインバーターが必要です。モーターとインバーターの両方を製造しています。

 1980年代にはスズキや東京電力、慶応大学などと試作を繰り返し、電気自動車用モーターの技術を20年、30年かけて蓄積しました。こうした点を認めてもらい、2006年に三菱自動車の商用車初の電気自動車「i-MiEV(アイミーブ)」に搭載されました。

── 明電舎のモーター、インバーターの優れている点とは。

三井田 「出力密度」といって、体積当たり、重量当たりの出力で当社のモーターは優れており、非常に小さく製造できます。インバーターも小型化技術を磨いてきました。アイミーブに供給した当初は、出荷台数も少なくコスト削減に苦労しましたが、生産の自動化を図るなど、徹底的に追求した量産技術が当社の競争力の源泉です。

── 三菱自動車以外に供給は。

三井田 三菱自動車を傘下に収めた日産自動車にも提供したいと考えています。これまでの供給実績、工場での自動化対応について何度もプレゼンを行っています。もう一歩のところで(ゴーン前会長が逮捕された事件が起きて)中断しています。ただ、当社としてはぜひ、日産自動車・三菱自動車グループに供給を増やしたい。クルマの車種は次のモデルに変わる時に競合他社に参入されやすいので、どれだけ技術を磨いておけるかが重要です。

── 売り上げが大きい変電設備関連の状況は。

三井田 変電機器は電力会社向けと鉄道会社向けに大別できます。自由化により電力会社は老朽設備の更新を進めていて、当社は粛々と対応しています。8年前の東日本大震災以降、コスト削減の要求が強まっています。3年前にインドの変圧器製造会社を買収しており、ここの製品を国内で販売できないかと考えています。

── 鉄道向けはどうですか。

三井田 旧国鉄時代から当社の変電設備が使用されています。新幹線用だと当社と三菱電機が競っています。上越新幹線は高崎から(新潟方面の)先はすべて当社です。東北新幹線でも盛岡から青森まで、北海道新幹線はほとんど当社です。そのほか九州新幹線の長崎ルート(建設中)、北陸新幹線の金沢─敦賀区間(同)は当社製が採用されています。

 近年は、電子マネー「Suica(スイカ)」に対応した自動改札機や、ホームドアの設置など駅で使う電気が増えており、これに対応するため、列車の車輪が回転する際に出る回生エネルギーをためて駅で使うシステムを提供しています。電車を動かすためと、駅舎で使うための電気のノウハウを蓄積して評価されています。

── インフラでは水処理事業も手掛けています。

三井田 日本では飲み水の上水が先に普及したのですが、当社は出遅れました。そこで我々の先輩たちは下水処理場で使う電気設備をターゲットとして、そこでは高いシェアを持っています。

 下水処理場では大量の電気を使うので、省エネルギーが重要です。下水処理場には多くの「プール」があり、バクテリアに菌を食べさせて沈殿させて汚泥になりますが、その汚泥で発電して下水処理場で使う技術も開発しています。

 地方では水処理以外にもさまざまな悩みを抱えています。群馬県館林市など3市5町が「群馬東部水道企業団」を作って、当社が17年4月から8年間、浄水場の運転や老朽施設の更新工事を提供します。ここは上水ですが、下水やゴミ処理や病院で使うエネルギーについても話し合いをしています。

── 20年度の海外売上比率目標が30%。今と変わりません。もっと高くする必要はありませんか。

三井田 インフラ企業の場合、プロジェクトの獲得動向に業績が大きく左右されるので、すぐに比率を高くはできません。上げるとしたらM&A(合併・買収)です。東南アジアは、鉄道プロジェクトを手掛けたシンガポールに製造拠点がありますが、今後はタイやベトナムなどメコン地域の企業と協業しながら伸ばします。

 その次がインド。モディ首相と安倍晋三首相が合意したインド新幹線は、JR東日本の仕様を持ち込みます。当社には国内で実績があり、貢献できると思います。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 営業で日本中を飛び回っていました。担当はNHKに納める電気品。高知以外の全国の放送会館に行きました。

Q 「好きな本」は

A 『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著)と『羊と鋼の森』(宮下奈都著)です。ともに音楽がテーマの作品です。

Q 休日の過ごし方

A バイオリンを弾くこと、音楽を聴くことです。好きなバイオリニストはイツァーク・パールマン。美しく力強い音に感嘆します。


 ■人物略歴

みいだ・たけし

 1955年生まれ。神奈川県立平塚江南高等学校卒業、慶応義塾大学商学部卒業。78年明電舎入社、2008年4月執行役員、常務執行役員、専務執行役員、取締役副社長を経て18年6月から現職。東京都出身。63歳。


事業内容:電力や鉄道向けなど重電機器、モーター、インバーターなど産業機器の製造・販売。

本社所在地:東京都品川区

設立:1917年

資本金:170億円

従業員数:8995人(2018年3月末、連結)

業績:(18年3月期、連結)

 売上高:2418億円

 営業利益:113億8100万円

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