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クルマ・健康・食品に注力し2兆円 淡輪敏・三井化学社長

持っているのはスイッチ一つで屈折率が切り替わる遠近両用レンズを装着させたメガネ Photo 中村琢磨(東京都港区の本社で)
持っているのはスイッチ一つで屈折率が切り替わる遠近両用レンズを装着させたメガネ Photo 中村琢磨(東京都港区の本社で)

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 何を作っている会社ですか。

淡輪 プラスチックの原料、樹脂などを作っています。汎用(はんよう)品より機能の高い製品が中心です。他にもメガネのレンズ原料など特殊な製品、農薬、ファインケミカル(精密化学品)など多様な商品を製造しています。

── 力を入れている分野は。

淡輪 自動車を中心としたモビリティー、ヘルスケア、農薬や包装材などのフード&パッケージの3分野です。車の構成部品には大量のプラスチックが使用されています。メーター類を設置するパネル、ドア周辺、座席シート、ヘッドライトのカバー。エンジンルーム内のコードカバー、耐熱製品、振動を吸収する部品など、自動車向けにはありとあらゆるものを提供しています。

── 強みはどこにありますか。

淡輪 主力樹脂のポリプロピレン・コンパウンドはバンパーに使う場合、塗装せずに光沢が出るなど機能性を高めています。ドア周りのゴムでも抵抗なく開閉でき、振動を吸収する技術を持っています。

── 自動車業界は電気自動車(EV)、自動運転、シェアリングと大きく変わりつつあります。

淡輪 EVになり、エンジンがなくなると耐熱の要求度は低くなる。その代わりに軽量化をもっと追求しないといけない。軽量化は、走行距離や燃費に影響するため、動力源が何であっても求められます。ただプラスチックは金属に比べると強度が弱い。その課題を克服し、多くの自動車部品をプラスチック化していくのが我々の最大の課題です。

── ヘルスケアの分野は。

淡輪 メガネレンズの原料であるレンズモノマー、とくに屈折率が高くて薄い高級グレードでは世界シェアで8~9割です。新興国でも生活レベルが上がり、軽く薄いものが求められています。

── 画期的な技術の遠近両用レンズを開発したとか。

淡輪 1枚のレンズで遠近が簡単に切り替わるメガネを開発しました。従来の遠近両用メガネは視線により屈折率が違うので使いにくい。そこで電子液晶レンズを挟み込んでスイッチ・オフの時は遠・中距離、オンにすると屈折率の差が生まれ近距離が見えるようになる「タッチフォーカス」というメガネを作りました。4時間でフル充電でき、1週間持ちます。

── その技術、発想はどこから生まれたのですか。

淡輪 以前から開発していましたが、うまくいかなかった。そこにパナソニックがヘルスケア部門を売却する話があり、2012年に当社が買収しました。レンズは当社の技術、電子回路はパナソニックの技術を使い完成しました。

 昨年2月から販売し、価格は25万円。百貨店や専門店で販売し、500本近く売れています。目標は年間5万本です。

── 売り上げ1兆円の半分はプラスチックの原料になるフェノールなどの基盤素材です。

淡輪 プラスチックの原料は競争の源です。しかし基盤素材に過度に依存すると市況変動に大きく左右される。そのために構造改革をしてきました。いま営業利益1000億円のうち約3割が基盤素材。25年には売り上げ2兆円、営業利益2000億円を目指し、利益の86%は付加価値の高い分野での収益を目指します。

── 目標達成に向けてM&A(合併・買収)もある。

淡輪 昨年、アーク(大阪市)という自動車の設計・デザイン・評価の会社を買収しました。今後は単に部品の提供だけでなく、試作や評価の段階にも関わり、こんな部品ができます、これだけ強度を保てます、という提案ができるようになる。こうした取り組みも強化します。

── プラスチックの海洋流出、とくにストローが話題になっています。

淡輪 海洋プラスチックが大きな問題であるなら、その流出を減らすために何が有効か、とういう視点が重要だと思います。日本はきちんと分別回収して、それを処理するという点で非常に高いレベルにある。流出を起こしている国々に日本のそうしたノウハウを伝えて参考にしてもらう必要があると思います。

 プラスチックのストローは悪いからやめよう、紙に変えようという動きもありますが、紙には森林資源やコストの問題などがあります。回収や処分の仕方を検討するのが大切だと思います。

── どう対応しますか。

淡輪 個社では難しい。業界として海洋プラスチック問題への対応協議会を立ち上げて、どう取り組むか検討している。私たちが発言すると作る側の理屈ではないかと、と言われかねませんが、リサイクルしやすいものにしていくとか、いろいろな視点でできる努力はしていく必要があると思います。

(構成=金山隆一・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 人事から事業部門に移り、基幹製品であるフェノールの増設競争に必死に対応していました。

Q 「好きな本」は

A 山崎豊子さんの本。とくにシベリア抑留から戻り活躍した瀬島龍三氏を描いた『不毛地帯』。

Q 休日の過ごし方

A 犬と遊んだり散歩して、何もしない、何も考えない時間を作っています。


 ■人物略歴

たんのわ・つとむ

 1951年生まれ。福岡県立三池高校卒業、早稲田大学商学部卒業、76年三井東圧化学(現三井化学)入社、2010年常務執行役員基礎化学品事業本部長などを経て、14年4月から現職。67歳。福岡県出身。


事業内容:総合化学メーカー

本社所在地:東京都港区

設立:1997年10月

資本金:1252億円

従業員数:1万7227人(2019年3月末、連結)

業績:(19年3月期)

 売上高:1兆4829億円

 営業利益:934億円

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