福寿園国際集団 中国の大手墓地販売・葬儀会社=富岡浩司/242
◆Fu Shou Yuan International Group
中国の福寿園国際集団は、霊園・墓地の販売や葬儀の運営などを手がける大手企業だ。1994年に上海で設立された。2018年12月期の売り上げ構成は、霊園事業が全体の86.4%、葬儀事業が12.0%、その他サービスが2.6%を占める。
霊園事業の中心は、墓地の販売だが、霊園や墓地の管理、宗教関連品の販売や食事の提供などといった参拝者へのサービスもする。一方、葬儀サービスは、宗教に応じた葬儀式典、司祭や僧侶などの手配から、お供え物や花束などの用意まで幅広く手がける。
福寿園はこれまで安定的に成長してきた。売上高は12年12月期の約4.8億人民元(約77億円)から18年12月期の約16.5億人民元(約260億円)へと、6年間で3倍強に増えている。地域別では、上海が売り上げの約5割と中心だが、営業拠点は全国三十数都市まで広がった。中国全体で霊園20カ所、葬儀施設22カ所を数える。国際進出にも積極的で、日本や韓国などの同業企業との提携や情報交換を進めている。
福寿園の成長の源泉は、都市部の住民に販売する商業用墓地の売り上げだ。販売する墓地には、この商業用墓地と農村部向け・地方政府向けの公用墓地の2種類があり、価格がまったく異なる。同社は18年に墓地を2万912件販売しているが、商業用墓地は1万2509件で、売上高が約12.8億人民元(約205億円)、公用墓地は8403件で、売上高が2721万人民元(約4.4億円)となっている。これを1件当たりの平均単価に換算すると、商業用墓地が約10.2万人民元(約164万円)なのに対し、公用墓地は約3200人民元(約5万1000円)に過ぎない。
墓地販売は利益率が非常に高い。18年12月期の霊園事業の売上高営業利益率は49.9%と、10%の葬儀事業を大きく上回った。その理由は、霊園の土地を取得した時期が、今ほど不動産価格が高くなかった90年代末から00年代初頭に集中しているからだ。17年12月期の決算報告書によれば、霊園事業のコストは墓石が29.4%、開発費用が32.2%を占める一方で、土地購入コストの割合は全体のわずか14.9%だ。その後、中国では不動産価格が高騰したため、今となっては、土地よりも墓石のコストが高いというのは考えられない。
ちなみに、中国の墓地はあくまで墓地の使用権を購入するもので、墓地に使用する土地の利用権を売買するものではない。一般的に契約期間は20年とされ、期限が来た際に延長契約しないと、集合墓などにお骨は移される。
規制もしたたかに利用
中国の墓地価格は年々上昇している。特に商業用墓地の1件当たりの平均単価は、17年に前年比17.2%、18年に同7.5%上昇した。これは社会の高齢化による死亡数の増加に加えて、墓地の供給数が減少しているためだ。業界統計によると、中国の商業用霊園数は14年の1598カ所をピークに、16年には1386カ所に減少した。
この原因の一つに政府による参入規制がある。福寿園も17年12月期に「霊園事業の粗利益率は82.7%」と発表し、「暴利産業」と市民から批判を浴びたが、高騰する墓地価格に対する怒りの声を受けて、国と地方政府は新規事業者の参入を規制し、従来の事業者にも新たな開発事業をなかなか認めないようになった。この結果、政府の意向とは裏腹に、墓地需給がひっ迫して、墓地価格を一層押し上げた。
ただし、こうした状況さえも利用して、福寿園はしたたかに事業を拡大している。経営不振に陥った霊園の買収を進めるほか、地方政府や農村部が保有する公用墓地に出資したり、BOT方式(行政が持つ土地に民間事業者が自らの資金で施設を建設し、事業期間終了まで、その施設を運営する)を利用して、公用墓地の長期運営を請け負ったりしている。結果的に、同社が保有・管理する霊園開発用の土地は18年時点で220万平方メートルと、17年末の196万平方メートルから約12%も増えた。
孤独死対策の契約も開始
葬儀事業で注力するのが、新たな商品・サービスの販売である。その一つが、独自開発した高燃費効率で低汚染型の火葬炉だ。この業界での評価は高く、18年だけでグループ内外で合計12台を出荷した。16年末の販売開始から売り上げ台数は合計26台に達している。
もう一つが、今話題の「生前契約」だ。これは喪主となる子どもや親族がいない人を対象に、契約者が亡くなった時の葬式や埋葬の内容について事前に取り決めするものだ。18年の契約件数は2485件で、17年の1174件から倍以上に膨らんだ。中国では16年1月に撤廃されるまで40年近く続いた一人っ子政策に加え、最近の晩婚化・少子化を背景に、これから孤独死が急増すると思われるだけに、利用増が予想される。
現在、福寿園が抱えるリスク要因には、大別して三つある。第一が、米中経済摩擦などによる景気減速だ。景気が悪化すれば、高額墓地の販売は落ち込むだろう。第二が、政府による規制強化だ。墓地価格が今後も上昇すれば、市民から非難の声が必ず出てくる。人気取りのため、地方政府が住宅のように価格抑制策を採用する可能性がある。第三が、利益率の悪化だ。霊園事業の高利益率は、過去に取得した土地価格の安さが大きい。これらの土地の在庫が消化されていくと、近年取得した高い価格の土地を利用する割合が高まる。利益率は当然、低下することになる。
それでも本格的な高齢化を迎える中、葬儀ビジネスの将来性は高い(囲み参照)。この分野で高成長している同社は、有望企業の一つに数えられるだろう。
(富岡浩司・アジア株アナリスト)
死者数の大幅増も進展する中国の高齢化
中国は高齢化社会に突入しつつある。2018年時点の中国における65歳以上の高齢者人口は1.67億人で、人口全体に占める割合は11.9%に達した。これが25年には14%を超え、35年には21%を超えると見られている。
中国の死者数は、毎年およそ1000万人で推移しているが、高齢化社会の進展とともに、これも次第に増加することになる。42年から45年にかけて死者数は、年間で最大2700万人になると予想されている。
仮に、一般市民だけでなく、富裕層もすべて、福寿園の公用墓地の平均単価である約3200人民元を墓地費用に支払うとして試算してみよう。すると、現在の墓地販売市場は320億人民元(約5100億円)と想定され、それが近い将来、最大872億人民元(約1.4兆円)にまで拡大する計算になる。こうした背景があるだけに、葬儀・霊園ビジネスの今後は有望だと考えられる。
(富岡浩司)
企業データ
本社所在地=中国上海市
主席(ChairMan)=白曉江(Bai Xiaojiang)
総資産=52億3770万人民元
純資産=40億5088万人民元
売上高=16億5130万人民元
営業利益=7億2289万人民元
当期純利益=4億8836万人民元
従業員数=2235人
上場取引所=香港証券取引所
(注)数字は2018年12月期