「古書店」と「新古書店」のあいだに──東京・町田 高原書店が遺したもの=北條一浩
この5月、古書を扱う東京・町田の高原書店の閉店が、SNS(交流サイト)を中心に大きなニュースになった。一軒の古書店の終焉(しゅうえん)がこれほどの話題になるのは異例のことである。
高原書店を知る人がまず思い出すのは、あの「大きさ」だろう。4階建てで総売り場面積は200坪。これが最後まで残った店舗で、1974年の開店以来、10を超える店舗を次々に展開、20坪程度から180坪、200坪の大型店までさまざまなタイプがあった。
高原陽子社長が語る。
「創業者の高原坦(ひろし)は店を広げるだけ広げ、61歳で逝ってしまいました。本には良書悪書の別などない、そしてどんな方にも来ていただきたいから、とにかく売り場面積が必要だというのが彼の思想でした」
古書店については、世代によってそのイメージが異なるかもしれない。年輩者には、店の奥に主人が鎮座する10坪以下の小さな空間であり、若い世代なら全国にあるブックオフのような「新古書店」がそれにあたるだろう。高原書店は両者の中間にあり、橋渡しをするような魅力を放つ店だった。
それを雄弁に物語る発想が「半額」である。新古書店は数年前まで「定価の半額で販売」を目安に掲げていた(現在は異なる)。ブックオフ1号店のスタートは90年だが、「定価の半額」設定を、高原書店は77年から実施している。シンプルな発想だが、当時は誰も思いつかず、(1)本に優劣をつけない、(2)客にわかりやすい、(3)会計の際、従業員の負担軽減と複数のメリットがあった。
高原書店は「半額」フロアの他に、古過ぎて半額にできない本、希少本のフロアを設け、バランスを取っていた。新刊書店に行くのと同じ感覚で、「出たばかりの本を半額で買おう」と探す客、いっぽうでマニアックな古本好きと、つまりは少しでも本に関心のある人なら誰も退屈させない店だったのである。
全国の書店数が減少の一途をたどっていることはご存じだろう。反比例するように、実は1店舗当たりの売り場平均坪数は増えているのだ(図)。
店の数は減り、残った店の売り場は大きくなった。商店街が消え、大型スーパーであれもこれも買えてしまう日常と同じ図式である。
徹底した平等主義で「大型化」した一つの店が、時代の「大型化」の波の中で逆に消えていく。
この皮肉を、そして高原書店が書店文化の大衆化に果たした役割を、ずっと忘れずにいたい。
(北條一浩・編集部)