結城紬を口コミで広げた信金の預金キャンペーン=浪川攻/23
茨城県結城市は歴史ある城下町である。この地に本店を構えて、地元で「ユーシン」の愛称で呼ばれているのが結城信用金庫だ。同金庫の特徴のひとつは「1市1店舗」と象徴的に言われる店舗戦略。結城市のほか、古河市、笠間市、筑西市などに張り巡らせている。信金としては珍しい独特のスタイルの下で、「小口先数主義」の地域密着路線を実現してきた。
ユーシンが昨年開始した取り組みがある。地元の名産品である結城紬(ゆうきつむぎ)にまつわるプロジェクトだ。
結城紬は世界でも珍しい撚(ひね)りをかけずに紡ぎ出した糸からつくる絹織物。その制作技術は2010年にユネスコの無形文化遺産に登録された。熟練の織り手ですら1反を織り上げるのに2カ月は要すると言われる。もちろん、高級品そのものである。反物は1反数百万円にもなる。したがって、一般人には高根の花だ。結城紬の名は知っていても手がとどくものではない。このままでは、着物離れの風潮も手伝って、地元ですら日常生活からは存在感が薄れかねない。実際、生産者は数軒に減り、かつては10軒以上を数えた問屋も激減した。
この事態に危機感を募らせ、地元名産品への関心を高める施策に動いたのが結城信用金庫。
第1弾は昨年11月のこと。スーパー定期預金のキャンペーンと結城紬を結び付けた。キャンペーン期間中に20万円以上の金額で契約した預金者を対象にして、抽選で200人に結城紬の印鑑入れ、名刺入れ、ペンケースを提供した。「地元の名産品で好評を得た」(石塚清博・同信金理事長)と言う。
次に打ち出した「結城紬プロジェクト」が同信金の総代会での結城紬のアピール。今年6月27日に開催した総代会では、結城紬の着物を着た女性職員3人が受付などに立ち、男性職員は全員、結城紬のネクタイを着用した。
「結城市以外の地域の総代の方々が初めて見たと言われ、結城市の総代からも喜ばれた」(同)
そして、この話は口コミで各地域に広がり、結城紬への関心が次第に高まってきている。ユーシンの狙いは的中したことになる。
女性職員が身に着けた結城紬は紬問屋がレンタルで貸し出している高級品。もちろん、女性職員は初めて身に着けた。「家族を呼んで記念写真を撮っていた」というほどにうれしく、貴重な体験だった。
群馬のシルクロード
地元で名産品に対する話題が盛り上がり、関心が高まれば、県外にもその情報は伝わっていく。和服への興味を抱く外国人旅行客は多く、インバウンド需要の取り込みにも期待が持てるようになる。
結城市から栃木の佐野、足利へと横に続く国道50号線はかつて、蚕の繭を運び、それを紡いだ糸を届けて、さらに仕上げた着物を輸送するための幹線道路だった。
これに着目する石塚理事長は「各地の信用金庫と連携して、北関東のシルクロード・ストーリーを再現して観光で地元経済の底上げを図りたい」と夢を語っている。外国人旅行客がレンタルの結城紬を着て、落ち着いた城下町を散策し、シルクロードを旅する日が訪れるかもしれない。
(浪川攻・金融ジャーナリスト)