週刊エコノミスト Online2019年の経営者

編集長インタビュー 時田隆仁 富士通社長

    photo=武市公孝
    photo=武市公孝

    デジタル技術で社会課題を解決

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 6月に社長に就任して、社員の服装を自由にしました。その目的は。

    時田 会社の文化を変えるために、まず服装を自由にして“かたち”から入りました。一緒に仕事する人々や会社に、ベンチャー企業やインターネットサービスの会社が多くなってきましたが、スーツにネクタイという従来の服装では、オープンなコミュニケーションが難しい。彼らと同じ目線で議論し、同じ方向性を目指すためには、場の雰囲気が大事だと思いました。

    ── 社内は変わってきましたか。

    時田 全体が変わったと言えるほどの実感はないですが、徐々にカジュアルな雰囲気にはなっています。私自身、普段はネクタイをしなくなりました。服装を自由にしたことで、決められたことをやるというスタイルから脱するきっかけになるのではないかと思います。

    新たな価値を生み出す

    ── 「IT企業からDX企業へ」という方針を掲げました。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何ですか。

    時田 今の若い世代は、生まれた時から携帯電話が普及している世界にいて、スマートフォンを使いこなし、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などデジタル技術が身近で当たり前の技術になっています。DXは、こうした技術を活用して大きな社会変革や社会課題の解決を実現できる次元に引き上げることだと思っています。

    ── 富士通には何ができますか。

    時田 今までは、顧客の仕事の効率化や省力化などを、自分たちの技術をベースにした製品やサービスで実現してきました。これからはそれだけでなく、われわれが新しい価値を提案して、顧客の目的とその先にある社会課題を解決するような視点で仕事をしていく必要があります。

    ── DXの実例で効果が上がっているものは。

    時田 分かりやすい例に物流があります。物流の配送ルートは多くの顧客が悩んでいます。われわれは量子コンピューティング技術を応用し、配送計画を最適化できます。細かい数字は言えませんが、配送会社との実証実験では物流コストを大幅に削減できています。

    世界で戦える企業に

    ── 経営目標として営業利益率10%を掲げています。ですが、国内のメーカーは5%以下が多く、富士通も現在は4・6%。ハードルは高いのでは。

    時田 われわれは今やグローバルなIT企業だと考えています。グローバル企業としてビジネスの進め方に不十分な部分があれば改善して、世界で戦える構造にグループ全体を変えていきます。そうすれば、おのずと達成できると考えています。楽観的と言われることは承知の上ですが、目標を立てないと前に進みません。

    ── サービス分野はまだしも、ものづくりの分野で利益率を改善するのは大変です。

    時田 コモディティー(汎用(はんよう)化した安いもの)を作っていては、量の勝負になって利益は上げにくい。当社はすでにパソコンや携帯電話の事業を売却して、全体の事業の方向性をサービス中心に転換してきました。一方で高い価値を生む製品なら、利益率は高くなります。

    ── どんな分野がコモディティー化しないのでしょう。

    時田 富士通しか作っていないものです。例えば、スーパーコンピューターは国内ではわれわれだけです。スパコンは重要な社会インフラだと思っています。今は主に大学などで研究向けに利用されていますが、今後は産業界でも使われるようになります。例えばものづくりでは、生産現場をデジタル空間で再現してシミュレーションすることが進んでおり、そのデータ処理にはスパコンが必要です。

    ── 海外事業はどのように展開しますか。

    時田 かつてはハードウエアの販売と保守に注力していました。その事業構造を変えて、サービスビジネスに転換していきます。また、地域や国ごとだった体制を統一したサービス体制に整えることが重要だと思っています。

    ── 自身システムエンジニア出身で、メガバンクの大規模なシステム障害の対応を経験しています。

    時田 私はその渦中にあって、顧客のシステムを支える責任を再認識しました。社長になってからは単に顧客に効率的なシステムを提供するという意識から進んで、富士通をいかに社会に貢献する会社にするかという意識に変わってきました。富士通は良くも悪くも大企業ですし、大企業には大企業の責任があります。デジタル技術を使って社会課題を解決し、社会に貢献することが、富士通の存在意義だと思うようになりました。

    (構成=村田晋一郎・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんな仕事をしていましたか

    A 金融畑のシステムエンジニアで、大きなプロジェクトにリーダーとして関わっていました。ユニックスサーバーからウィンドウズサーバーに切り替わる時期で、やりがいの大きい仕事でした。

    Q 「好きな本」は

    A ルイス・ガースナーの『巨象も踊る』、サティア・ナデラの『ヒット リフレッシュ』などIT企業経営者の著作をよく読みます。彼らの考え方に共感します。

    Q 休日の過ごし方

    A 愛犬との散歩を楽しんでいます。


     ■人物略歴

    ときた・たかひと

     1962年生まれ。駒場東邦高校卒業、88年東京工業大学工学部卒業、富士通入社。2014年金融システム事業本部長。執行役員、執行役員常務を経て、19年6月から現職。東京都出身、57歳。


    事業内容:ICT分野の各種サービスを提供。サーバーなど関連製品の開発・製造・販売・保守運用

    本社所在地:東京都港区

    設立:1935年6月

    資本金:3246億円

    従業員数:13万2138人(2019年3月現在、連結)

    業績(19年3月期、連結)

     売上高:3兆9524億3700万円

     営業利益:1302億2700万円

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