週刊エコノミスト Online2019年の経営者

編集長インタビュー 長沢仁志 日本郵船社長

    Photo 中村琢磨:東京都千代田区の本社で
    Photo 中村琢磨:東京都千代田区の本社で

    エネルギー事業で長期安定収益目指す

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 前期(2019年3月期)は最終損益が400億円超の赤字でしたが、19年4~6月期に黒字転換しました。要因は?

    長沢 当社と商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を17年に統合した「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス」(ONE)の黒字化が最大の要因です。

     前期はONEの赤字約600億円が足を引っ張りました。新システムへの対応がうまくいかなかったことや、受注体制の混乱が原因です。今期は、これらの問題が改善したことで運航の効率が大幅に上がりました。

    ── 3社の商習慣の違いも大きいのでは。

    長沢 3社とも、それぞれ100年以上の歴史を持っているため、書類の書き方・情報の伝え方にも違いがありますが、徐々に解消されています。

     また、ONE設立時に3社で合意した「3社の中で一番いいシステムを使う」ことができるようになりました。例えば、荷物の積み付けで最も優れていた当社のシステムを、ONEとして使えるようにしました。

    ── もう一つの赤字要因だった航空貨物事業はどうですか。

    長沢 子会社の日本貨物航空(NCA)が事業を展開していますが、航空貨物需要が米中貿易摩擦の影響で前期比3割も減りました。自動車関連、半導体の輸送が打撃を受けており、立て直すのは大変です。目下、グループの最大の経営課題です。NCAの現場の声も聞きつつ、海外企業との提携も含めて最善の選択肢を探っています。

    ── 18年3月発表の中期経営計画では、液化天然ガス(LNG)輸送などエネルギー部門に注力する方針を掲げています。

    長沢 ビジネスの世界では今、ESG(環境・社会・ガバナンス)という流れがあります。ただ、再生可能エネルギーだけでエネルギー需要全体は満たせない中、次世代エネルギーへのつなぎ役として注目されているのがLNGです。

     LNG輸送は、契約期間が長い場合は20年にも及ぶため、長期・安定した収益源になります。1980年代に日本の電力・ガス会社などが組んだインドネシアのLNGプロジェクトに当社も参画して以降、LNG輸送で40年近い実績があります。

     LNG輸送船を80隻以上持っている海運会社は、世界的に見ても当社を含めごくわずかです。LNG船を経験した社員は多く、船の管理会社も東京、ロンドン、シンガポールにあります。LNG船の数も近い将来、100隻に増えるでしょう。世界でLNGの新規プロジェクトが立ち上がったとき、真っ先に声が掛かるのが当社。勝機は十分あります。

    データ活用で効率化

    ── もう一つの注力分野として海洋資源開発を挙げています。

    長沢 海底油田開発に参画しています。油田からくみ上げた原油は「FPSO」(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積み出し設備)と呼ばれる、いわゆる洋上の石油基地で精製されます。それを陸まで運ぶ専用のシャトルタンカーも運航しています。現在、関与しているFPSOは3基で、いずれも20年の長期契約で安定収入が見込めます。

     米国でシェールオイルの生産が増えたことで、海洋油田開発も一時停滞しましたが、最近は石油メジャー各社が南米を中心に生産を再開しているので、大きなチャンスが来てます。

    ── 船の「自動運航」にも取り組んでいますね。

    長沢 センサーの発達で航海中の船のいる位置の気象・海象情報のデータがリアルタイムで取れる時代になりました。

     こうした技術を活用すれば運航の安全性を高めるとともに、省力化が可能になります。その取り組みの中で自動運航船の発想も出てきました。

    ── 船上で使える電子マネー「マルコペイ」も開発しました。

    長沢 いまだに船員の給与を船長が現金で手渡ししている状況があったので、船員の家族にもすぐに送金できるようにしようと、若手社員が中心になり米シティバンクなどと提携して仕組みを整えました。20年1月からサービス開始予定です。

    ── 客船も気になります。

    長沢 06年就航の「飛鳥2」を運営する郵船クルーズは、飛鳥21隻だけでは固定費が高く付くため収益性が低いのが課題です。事業継続については当社内で議論百出です。来冬に予定する大改装を終えれば、あと10年は運航可能ですが、事業をどうしていくかの決断はここ1、2年でしなければなりません。

     飛鳥ブランドは国内に浸透していて、「日本最高の客船」との評価を得ていると思っています。個人的にはやめるとは言いたくありません。できれば、もう一度よく考えてもうかる事業にしたいです。

    (構成=大堀達也・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A モーレツ社員でした。肉やフルーツなどを運ぶ冷凍船事業を担当していましたが、お金のない部署だったので、HISの格安旅券で1カ月かけて世界中の顧客に会いに行ったこともあります。

    Q 「好きな本」は

    A 歴史的人物やビジネスで成功した人物の活躍を描いた本が好きです。自分に足りないものを見つけられます。

    Q 休日の過ごし方

    A 録画しておいたサスペンスドラマをよく見ます。


     ■人物略歴

    ながさわ・ひとし

     1958年生まれ。80年神戸大学経済学部卒業、日本郵船入社。2004年LNGグループ長。11年取締役常務経営委員。13年代表取締役専務経営委員。18年副社長を経て、19年6月から現職。京都府出身、61歳。


    事業内容:一般貨物輸送事業(定期船、航空運送、物流)、不定期船事業、不動産事業ほか

    本社所在地:東京都千代田区

    設立:1885年

    資本金:約1443億円

    従業員数:3万5711人(2019年3月末)

    業績(19年3月期・連結)

     売上高:1兆8293億円

     営業利益:110億8500万円

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