週刊エコノミスト Online2019年の経営者

編集長インタビュー 井上和幸 清水建設社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都中央区の本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都中央区の本社で

    不動産開発を拡大、洋上風力建設も

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 大手ゼネコンの一角ですが、特徴は。

    井上 1804年に宮大工が創業しました。215年間、建設事業ほぼ一本やりでやっています。社寺建築を専門にする部門があるのはゼネコンでは当社だけです。今回の天皇陛下の即位に伴う大嘗祭(だいじょうさい)でも、儀式を執り行う大嘗宮(だいじょうきゅう)の建設を請け負いました。全国の宮大工や資材の調達ルートなど長年のノウハウがあるのは当社の特徴で、やるべき仕事と思い受注しました。

    ── 2019年3月期の売上高は前期比10%増の1兆6649億円、最終利益は過去最高の996億円でした。好調の理由は何ですか。

    井上 東日本大震災を受けて、国と自治体が国土強靱(きょうじん)化のためのインフラ整備をしっかりやっていくという施策を打ち出しています。民間でも製造業、非製造業ともに景気が良くなっているうえ、首都圏では大規模再開発が相次いでおり、当社だけでなく建設業界全体が非常に活況です。

    ── 最近の大型受注は。

    井上 例えば、森ビルが東京都港区の虎ノ門、麻布台で進めている大型再開発プロジェクトです。その中心になる超高層ビルの建設工事を落札することができました。完成時には日本で最も高いビルとなります。

    ── 中期経営計画(19〜23年度)では、不動産開発に力を入れる方針を掲げています。

    井上 ここ数年間、会社の業績が良くキャッシュフローが積み上がってきたので勝負する時と判断しました。今後の5年間を先行投資期間に位置付け、5年間で7500億円を投資します。

     金額的に一番大きくなるのが不動産の投資開発で5000億円の計画です。従来は開発して建設した後に、売却して利益を得るというビジネスモデルが中心でしたが、今後は当面保有します。安定した賃貸収入を得ることができるようになれば経営上の財産になります。

    ── 本業が好調なのに、なぜ不動産に多額の投資を。

    井上 建設業界は今後、何年かは現在の建設投資のボリュームを確保できるでしょう。しかし、長期的には人口減少の影響を受けると考えています。また、建設業はどうしても景気の波の影響も受けてしまいます。そのため、建設の請負以外の事業を安定的に成長させて、持続可能な会社にしていく必要があると思っています。

    「論語と算盤」社是に

    ── 不動産以外では、洋上風力発電の建設にも参入しました。

    井上 日本は周辺の海域で洋上風力発電の有望地域があり、関連する法律もできました。当社の試算で、日本海近海の洋上風力発電施設建設工事の市場は5兆円の規模です。その3割くらいの獲得に挑戦していきたいと思います。まずは洋上風力発電を建設するための機械や船を作りますが、一方では、発電事業に参画するための準備も進めています。

    ── 海外展開は?

    井上 現在の海外事業の売り上げ利益(粗利)は全体の5〜6%ですが、30年に向けた長期目標では国内と海外の売り上げ利益の比率を75対25にもっていきたいと考えています。アジアはベトナム、インドネシアなどが有望でしょう。不動産投資やインフラ事業では米国にも目を向けて、現地企業との提携を目指したいと思います。

    ── 人手不足が課題となっています。

    井上 一番大変なのは現場で働く技能者です。どんどん減っていて、今後10年以内に高齢の技能者が一挙にいなくなる時代が来ます。当社でも外国人がだいぶ現場に入ってきていますが、全体の2%弱に過ぎません。日本建設業連合会の試算では、建設技能者数が25年度に、14年度比で128万人減少するとしています。このうち90万人は若い人に入ってもらおうと、労働環境の改善、土日休日の確保、給料アップなどに取り組んでいます。

     それでも30万人足りない部分は技術開発で補おうとしています。例えば、ロボットの活用です。資材を上層階まで自動で運ぶロボットや、溶接ロボットなどをすでに現場で実証運用しています。

    ── 昨年、リニア談合事件の判決で会社が罰金刑を受けました。

    井上 約10年前に名古屋市の地下鉄工事で談合事件があり、ルールや研修などを徹底しても、また起きてしまいました。私自身も反省し、会社として原点に戻ることが大切だと痛感しました。その一つの表れとして、かつて経営指導を受けた渋沢栄一の教えである「論語と算盤(そろばん)」を、5月に社是として掲げました。「道理にかなった企業活動によって、社会に貢献することで、結果として商売が発展する」ことを意味しています。もともと社内で経営の基本理念としていましたが、もっと心に刻んで忘れないという決意を込めています。

    (構成=桑子かつ代・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A 横浜の商業ビルで初めて工事主任をやりました。30代後半に工事長になり、時間を忘れて現場に没頭しました。台風の時には心配で現場に行きました。

    Q 「好きな本」は

    A 司馬遼太郎の『坂の上の雲』です。最近は池井戸潤の作品も読みます。

    Q 休日の過ごし方

    A 映画や観劇で、買い物にも行きます。


     ■人物略歴

    いのうえ・かずゆき

     1956年生まれ。早稲田大学高等学院卒業、早稲田大学大学院卒業。81年清水建設入社。94年横浜支店工事長。2014年常務執行役員・名古屋支店長などを経て、16年4月から現職。東京都出身。63歳。


    事業内容:建築・土木など建設工事の請負、不動産開発など

    本社所在地:東京都中央区

    創業:1804年

    資本金:744億円

    従業員数:1万714人(2019年4月1日現在)

    業績:(19年3月期、連結)

     売上高:1兆6649億円

     営業利益:1297億円

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