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夏野剛(ドワンゴ社長)×中島聡(元マイクロソフト ソフトウエア・アーキテクト) シンギュラリティ世代の技術と経済

    夏野剛(ドワンゴ社長)×中島聡(元マイクロソフト ソフトウエア・アーキテクト)
    夏野剛(ドワンゴ社長)×中島聡(元マイクロソフト ソフトウエア・アーキテクト)

    「『同調圧力』が子どもをつぶす」「日本は今、会社を作るチャンス」

    「ウィンドウズ95」を設計したプログラマーの中島聡氏と、NTTドコモで「iモード」を世に送り出した夏野剛氏。「シンギュラリティ・ソサエティ」設立1周年を記念したイベントが今年9月、東京都内で開かれ、2人が日本のITの現状や教育まで縦横無尽に語り合った。

    (構成=白鳥達哉・編集部)

    夏野 最近感じているのが、日本企業の兼業に対する見方が変わり始めているということです。働き方改革の影響で働き方が効率化して暇も作れるようになったのもあると思いますが。

    中島 兼業のために、いろいろな勉強をしようとする人が多くなりましたね。先日、あるハッカソン(開発者や設計者、デザイナーなどがチームを組み、数時間から数日の短時間で、一つのアイデアを形にするイベント)に行ったのですが、若くて元気のいい開発者がバリバリとプログラム書いているのを見て、思わず「この人を採りたい」と考えてしまいました。

    夏野 東京は今、(企業にとって)エンジニアの“釣り堀”状態かもしれませんね。能力をもてあましたエンジニアを、中国より安い値段で釣れるんですよ。

    中島 日本の大きなIT企業に行っている人も、みんなそれなりに危機感を持って勉強しています。

    夏野 個人で情報を発信する人も増えているし、ハッカソンのようなイベントもたくさん開かれている。いろいろな人たちとつながる学びの場に行けるようになった。オンラインサロンに集まる人もいっぱいいて、みんな会社じゃない場を探している感じ。エンジニアたちのかいわいでも、違うことをやろうっていう意識がすごく本格的になってきましたね。特に若い人は。

    中島 いいことですよね。今までは会社にしがみついていたじゃないですか。だから日本は今、自分で会社を作るチャンスだと思います。

    会社を去らない創業者

    夏野 日本ほどベンチャーに優しい環境はないですね。シリコンバレーよりお金もあるし。(日本の投資家は)大きな金額は出さないですが、2000万~3000万円くらいならいくらでも出してくれる。ただ、リードインベスター(率先して中心的な役割を果たしてくれる投資家・企業)がいない。みんなちゅうちょしていて、他が投資したらこちらも投資します、という感じ。リードになるのはリスクだからやらない、みんなで失敗したらいいって思ってるみたいで。

    中島 ベンチャーキャピタルとして、それはダメですよね。ちなみに僕は、米国で経営していた「ジーボ」という会社を今年5月に売却しました。10年ほど経営していたので、結構長かったですね。

    夏野 意外と、日本は創業者が会社を去らない。もっと言うと売らない。先日も、東証1部上場会社になったインターネットベンチャー企業の社長と話をしたのですが、ヤフーがZOZOを買収したニュースはショックだったらしいです。自分の会社を売るというのは身を切る思いだって。

    中島 僕も言われましたよ、せっかく自分で作ったのになぜ売ったんですかと。米国ではそんなことは言われません。「イグジット」(出口=「会社の売却」の意)という言葉もありますしね。

    夏野 米国の感覚では、どちらかというと幸せな感じですよね。

    中島 それもそうですし、みんな得意な部分が違うじゃないですか。僕はゼロをイチにするのが得意なタイプですが、会社がある程度大きくなったら、そこからはまた別の人材が必要になる。

    夏野 でも、一緒にやってきた社員がいて仲間がいる。日本の経営者はよく、自分の趣味でこの会社を作ったと語りたがりますよね。

    中島 それなら、投資家からお金を集めてはダメですよ。投資家から集めるというのは、(第三者に)イグジットして投資家に利益を還元してこそなんぼなので。

    夏野 会社にしがみつく感じは良くない。人間って場所や立場が変わると違うアイデアが浮かんだりするので、場所変えていかないと。安住の地を求めると、それ以上進化しないと思います。

     私は今、通信制の私立高校「N高等学校(N高)」を運営していますが、N高にはすごく優秀な人間が集まっています。例を挙げると、テニスのウィンブルドン・ジュニア選手権男子シングルスで今年7月に優勝した望月慎太郎さん。現在、米フロリダ州にあるプロテニス選手の養成所にいるのですが、高校卒業の資格を取りたいという理由から今年、インターネットで通えるN高に入学しました。

    好きなことできる環境を

    中島 オンラインだから誰でも、どこからでも通えるのはいいですね。N高の取り組みを大学か中学、どちらかの方向へ広げる予定はあるのですか。

    夏野 今年4月から中等部を開校しました。今、N高にいる生徒の約7割は、どこかのタイミングで中学校に通えなくなった子どもたちなんです。その理由がコミュニケーション障害にあるのではと思って、いろいろと調べてみたんですが、実はそうではなく、日本の教育システムにあった。

     日本の教育システムはすごくよくできていて、どこにいても同じ教育プログラムが受けられるように設計されている。つまり、それより下の子も、逆に上の子も、はみ出る子は「何かおかしい」となってしまい、仲間はずれになって学校に行けなくなってしまう。

    中島 いわゆる「同調圧力」がかかるということですね。僕もはみ出ていたから、そういう学校があったら良かったなって思います。僕は好きなことだけやりたかったタイプだから、プログラミング教育なんかも全員にやらせるのは違うのではないでしょうか。

    夏野 小学校のプログラミング教育では、「マインクラフト」というゲームをやればいいと思っています。ブロック同士を組み合わせていろいろなものを作っていくゲームで、考え方がプログラムを作っていくこととまったく一緒なんです。「ユニティ」というゲーム用の開発環境でプログラム開発を学んでもいいですね。

    中島 ユニティでもアプリ開発でもいいけれど、成果が目に見えるものがいいと思います。

    夏野 プログラミング学習は、問題文のカッコを埋めるような、穴埋めで覚えても意味はない。ただ暗記する作業では、プログラミング嫌いが増える結果にしかならないでしょうね。


    シンギュラリティ・ソサエティ

     日本のIT人材育成が後れを取っていることに危機感を抱き、中島聡氏と夏野剛氏が発起人となって2018年8月に設立した一般社団法人(東京都渋谷区)。シンギュラリティ(技術的特異点)には、人工知能が人間を置き去りにして進歩する世界の意を込めた。会員など向けに情報発信や勉強の場づくりを進めている。


     ■人物略歴

    なかじま・さとし

     米マイクロソフトでウィンドウズ95や98の開発に関わる。2000年に退社後、設立したソフトウエア開発会社、UIエボリューション(現ジーボ)を19年5月、360億円で自動車部品メーカーに売却した。


     ■人物略歴

    なつの・たけし

     東京ガスなどを経て1997年NTTドコモに入社。世界初のモバイルインターネット「iモード」を世に送り出した。慶応義塾大学大学院特別招聘教授を経て、2019年2月にドワンゴ社長就任。

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