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米国の時代に終わりを告げる中露のハイパー兵器と宇宙戦=会川晴之

    (出所)各種資料から筆者作成
    (出所)各種資料から筆者作成

     米中露の3カ国が、軍事や宇宙分野で激しい競争を続けている。トランプ米政権は、中露両国を「戦略的競合国」と位置づけ、早急な対抗策の構築を目指す。だが、中露両国は次世代兵器の切り札と言われるハイパーソニック(極超音速)兵器で米国に先行するほか、米国の独壇場だった宇宙分野でも猛烈に追い上げる。東西冷戦終結後、長らく続いた米国の「独り勝ち」の時代はすでに終わり、世界は大競争時代に突入している。

     急速な経済発展を続け、「一帯一路」で世界にはばたこうとする中国。そしてロシアは、プーチン大統領の立て直しにより、北大西洋条約機構(NATO)のスカパロッティ司令官が「Russia is back」と警戒感をあらわにするほど軍事面で躍進を遂げる。

     トランプ政権は2017年12月に公表した国家安全保障戦略で、対テロ戦争から中露両国への対抗策を最重要課題に切り替えた。

     その背景には「空、陸、海、宇宙、サイバー空間と、あらゆる面で米国の優位性が徐々に失われてきた」(米国防総省)との警戒感がある。

    米国が開発を進めるグライダー型ハイパーソニック兵器のイメージ図。宇宙空間で弾道ミサイルから分離、先端部分が滑空する(米国防総省提供)
    米国が開発を進めるグライダー型ハイパーソニック兵器のイメージ図。宇宙空間で弾道ミサイルから分離、先端部分が滑空する(米国防総省提供)

    守る手段がない極超音速

     中国は10月1日の建国70周年式典で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)など多数の新型兵器を披露した。なかでも音速の5倍を超すマッハ5以上の極超音速で飛行するハイパーソニック兵器「DF(東風)17」が注目を浴びた。

     この兵器の最大の特徴は、その速度だ。米海軍のトマホークなど巡航ミサイルは、音速を下回るマッハ1以下の亜音速で飛ぶが、ハイパーソニック兵器はマッハ20近くで飛行する。元々は、冷戦終結により世界各地から米軍が撤退を進める中、「世界中どこでも1時間以内に攻撃できる兵器を」との構想から米国で開発が始まった。

     だが、米国は08年のリーマン・ショック後の財政難を背景に開発費を大幅に削減する一方で、中露両国は集中的に開発を進め、追いつき、追い越した。

     脅威は速度だけではない。巡航ミサイルのように低空飛行が可能なため、地上レーダーでの捕捉が難しい。航空機のように飛行経路をこまめに修正できる。

     弾道ミサイルは、打ち上げから目標地点に落下するまで弧を描いて飛ぶため、物理計算により軌道予測を立てやすい。日本や米国が整備を進める弾道ミサイル防衛(BMD)は、それを前提としたシステムなだけに新型兵器には対応できない。米戦略軍のハイテン司令官(当時)は「守る手段がない」とお手上げの姿勢を示すほどで、軍事の常識を変える「ゲームチェンジャー」とも言える。

    ハーパーソニック、巡航ミサイル型=米国の巡航ミサイル型ハイパーソニック兵器。B52戦略爆撃機にぶらさげて空中から発射する(米国防総省提供)
    ハーパーソニック、巡航ミサイル型=米国の巡航ミサイル型ハイパーソニック兵器。B52戦略爆撃機にぶらさげて空中から発射する(米国防総省提供)

    劣化した米国の開発力

     ハイパーソニック兵器には、弾道ミサイルに載せて打ち上げ、大気圏外で分離した後に低空で滑空するグライダー型と、戦闘機や爆撃機の翼の下にぶら下げて発射、自力で飛行する巡航ミサイル型の2種類がある。中国の「DF17」はグライダー型。ロシアは、グライダー型の「アバンガルド」と、巡航ミサイル型の「キンザール」を開発している。

     中国は14年から開発を本格化、これまで10回近くの実験を繰り返した。飛距離は1800~2500キロと中距離。米国本土攻撃用ではなく、日本やグアムに駐留する米軍や台湾を射程内に置く。20年の実戦配備を目指しており、米国製のBMDに頼りきる日本には大きな脅威となる。

     ロシアは、18年12月に「アバンガルド」をカザフスタンとの国境に近いウラル南東部の基地から発射、6000キロ飛行させて極東のカムチャツカ半島に置く標的に命中させた。プーチン氏は「実験は完璧だった」と成功を宣言。「いかなるBMDシステムも対処できない」と述べ、新兵器の「無敵」ぶりを強調した。プーチン氏によると、速度は「マッハ20以上」出るという。年内に両タイプを実戦配備する方針だ。

     先行していたはずの米国は、23年飛行を目指して両タイプの開発を進める。だが、思うように成果は上がらない。開発を担当するグリフィン国防次官は「ケネディ大統領が月面着陸を公約してから米国は8年でその偉業を成し遂げた。しかし、現在は(ワシントン郊外の)ダレス空港までの地下鉄工事もなかなか進まない」とのたとえ話で、米国の開発力劣化を嘆く。

     米国が開発に手間取るのは、技術要求を中露よりも高く置いていることも一因だ。中露は、弾頭に核兵器、もしくは通常弾頭を載せる従来の手法を踏襲したが、米国は弾道ミサイル迎撃用のミサイルと同じ「体当たり」で対象を破壊する手法を選んだ。正確性が要求されるため開発は困難が伴うが、爆薬を載せていない以上、「大量破壊兵器ではない」との主張が可能となる。いつでも、どこでも使える兵器にしたいとの思惑がある。中露は正確性に目をつぶり、爆発力でその誤差を補う。

    米国が東西冷戦時代に開発したASATミサイル。F15戦闘機から発射し、高度560キロまで到達できる=会川晴之撮影、2019年8月31日、ワシントン郊外のスミソニアン航空宇宙博物館で
    米国が東西冷戦時代に開発したASATミサイル。F15戦闘機から発射し、高度560キロまで到達できる=会川晴之撮影、2019年8月31日、ワシントン郊外のスミソニアン航空宇宙博物館で

    「米国の衛星を破壊する」

     米中露のもうひとつの主戦場は宇宙だ。

    「不可解な活動をロシアの衛星が宇宙空間で続けている」。昨年10月、ジュネーブで開かれた軍縮会議で、米国務次官補が、ロシアを痛烈に非難する演説を始めた。ロシアが17年6月に打ち上げた衛星が、専門家が「ランデブー」と呼ぶ他の衛星への接近を繰り返していることを批判したものだ。米国防情報局(DIA)は、こうした実験は「有事の際に米国の衛星を破壊する準備だ」と分析する。

     衛星への攻撃手法は、(1)衛星が体当たりする、(2)ロボットアームで衛星をつかむ、(3)衛星からレーザー兵器、マイクロ波で攻撃する、(4)サイバー攻撃で無能力化する──などの手法がある。地上からミサイルを打ち上げて衛星を破壊する衛星攻撃兵器(ASAT)などもある。

     米ソ両国は東西冷戦時代からASATの開発を手がけた。米国はF15戦闘機に2段式ミサイルを衛星に向けて撃つ実験を実施。08年には弾道ミサイル迎撃用のSM3で、寿命を終えて落下する衛星を撃ち落とした。

     中露両国は、地上発射型の弾道ミサイルを衛星攻撃に転用するほか、レーザー兵器の開発を進める。中国は07年1月に自国の衛星を弾道ミサイルで破壊、以後、数回、実験を重ねた。米国家情報局(NI)は18年版の世界の脅威分析で、「中露両国は数年以内にASATを開発、運用能力を持つ」と分析、警戒を強めている。

     衛星は、我々の日常生活に欠かせないものとなっている。スマートフォンでの位置情報確認に使うGPS、放送や通信、気象、資源探査などでしっかり根付いている。軍事でも同様で、偵察やミサイル発射を探知する早期警戒衛星などがある。衛星がなければ敵の位置把握が難しくなるほか、精密誘導弾やドローン(無人機)などの運用もできない。ただ「相手からの攻撃を想定していない」(米専門家)ため、攻撃されればひとたまりもない。宇宙空間に米国が築き上げた衛星網は、これまでは強みだったが、今はアキレスけんになりつつある。

    「プーチン大統領は私の親友であり同僚だ」。今年6月、モスクワを国賓として訪問した中国の習近平国家主席は、中露両国の親密ぶりを高らかに誇った。12年に就任した習氏は初の外遊先にロシアを選ぶなどすでに30回近くプーチン氏と会合を重ねる。

     冷戦時代、米国は中ソ引き離しを狙うため中国と国交正常化を果たした。だが、現在はその構図が逆転、米国が「戦略的競合国」とライバル視する中露両国が急接近を図っている。世界2位の経済大国である中国と、核大国ロシアの連合は、カーター政権時代に国家安全保障問題を担当したブレジンスキー元大統領補佐官によれば「米国にとって最悪のシナリオ」となる。

    接近する中露

     中露両国の接近は、08年のリーマン・ショックでロシア経済が落ち込んだのがきっかけ。14年にロシアが一方的にウクライナのクリミア半島を併合後、米欧などから厳しい経済制裁を科せられたことでロシアの中国接近が加速した。

     貿易面ではロシア産石油、ガスの輸入量が急増している。16年以後は中国がロシア産石油の最大の輸入国となったほか、パイプライン整備により、天然ガスもドイツに次ぐ2位になる。貿易額も17年は840億ドルと前年比20%増加、18年には1080億ドルと、1000億ドル台に乗せた。ロシアにとって中国は最大の貿易相手国だが、中国から見ればベスト10にも入らない。両国間には中国人民元建てでの決済を目指す動きもある。1960年代までの中ソ関係は、ソ連が主で中国が従の関係だったが、中国の急成長により現在は逆転している形だ。

     軍事面でも接近が続く。ロシアは、10年ごろまで中国が違法コピーによる技術流出を警戒して最新鋭武器の販売をためらっていた。だが、クリミア半島併合後の制裁によって背に腹は代えられない状況に追い込まれる。15年以後は、最新鋭戦闘機スホーイ35や、地対空ミサイル「S400」など最先端の武器の中国向け輸出を次々と始めた。

       *    *    *

     15年には地中海で海軍の初の合同演習を実施。16年には南シナ海、17年にはバルト海でも演習を実施した。昨年は、ロシア極東での冷戦後最大規模の軍事演習「ボストーク(東方)2018」に初めて中国陸軍が参加した。今年7月には、東シナ海と日本海で合同空軍演習を実施、日韓両国が領有権を主張する竹島上空にロシア軍の空中警戒管制機や爆撃機、中国軍の爆撃機が相次いで飛来するなど中露の台頭と接近は、日本にとってもひとごとではない状況になりつつある。

    (会川晴之・毎日新聞編集編成局記者)

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