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サウジへのドローン攻撃で露呈 役立たずの米最新兵器と次の照準=会川晴之

    ドローン攻撃を受けたサウジの製油所(Bloomberg)
    ドローン攻撃を受けたサウジの製油所(Bloomberg)

     9月14日午前4時(現地時間)、サウジアラビアの石油施設2カ所が巡航ミサイルやドローン(無人機)による攻撃を受けて被災した。世界最大の処理量を誇る施設が半壊しただけに原油市場は急騰、1990年のイラクによるクウェート侵攻以後では最大となる値上がり幅を記録した。米国とイランの対立激化が、世界経済を揺さぶる事態を招いた形だが、同時にサウジの脆弱(ぜいじゃく)性も浮き彫りになった。

     攻撃を受けたサウジ東部のアブカイクとクライスにある石油施設は、原油に混じる天然ガスを分離したり、大量に含まれる硫黄分を除去したりする施設。特にアブカイクは、世界最大の日量700万バレルの処理能力を誇る。サウジは半月ほどで修復を終えるとしているが、原油の安定的供給に不安を残した形だ。

     実施主体は現時点では不明だ。攻撃直後、サウジと交戦状態にあるイエメン反政府派でイランの支援を受けるイスラム武装組織「フーシ」が「ドローン10機で攻撃した」と声明を発表した。だが、米国は「イランが攻撃の陰にいるのは確実と見える」(ペンス副大統領)とフーシ犯行説を否定した。イラク国境に近いイラン西部からミサイルやドローンが発進したと見ている。

     一方、イランは「米国の指摘は根拠がない」(ロウハニ大統領)と関与を否定している。5~6月にペルシャ湾岸で相次いだタンカー攻撃と同様、攻撃主体が不明という構図にある。

     2015年3月からサウジと交戦を続けるフーシは、これまでも首都リヤドや国境地帯に弾道ミサイルやドローンによる攻撃を仕掛けてきた。国連が今年1月にまとめた報告書によると、フーシが保有する最新鋭ドローン、UAV─Xの最大航続距離は1500キロ。1000キロ以上離れたサウジ施設への攻撃も不可能ではない。巡航ミサイルも保有する。

    ペルシャ湾岸に立ち並ぶサウジの石油タンク群=2003年3月24日(会川晴之撮影)
    ペルシャ湾岸に立ち並ぶサウジの石油タンク群=2003年3月24日(会川晴之撮影)

    ロシア製兵器なら防げた

     だが今回の攻撃は、規模も大きく極めて洗練されたものだった。サウジ当局によると、攻撃にはドローン18機と巡航ミサイル7発が使われ、複数の貯蔵タンクを同方向から正確に射抜いた。米国防総省のホフマン次官補(広報担当)は「編隊飛行で対象を正確に攻撃した」と指摘、「過去のフーシの攻撃とは一致しない」と、イランの手助けがなければ実現できない攻撃との見方を示している。

     今回の教訓は二つある。一つめは、世界3位の国防予算を誇るサウジが、攻撃をいとも簡単に許してしまったこと。米国が販売した世界最新鋭の兵器群が機能しなかった点だ。

     その原因は、今回の攻撃兵器が弾道ミサイルではなく、低空を飛行する巡航ミサイルとドローンが主体だったことにある。サウジが保有するパトリオット・ミサイルは弾道ミサイル迎撃(BMD)用に設計されており、大気圏外から飛来する弾道ミサイルをできるだけ地上から離れた高い位置で撃墜することを目指している。

     だが、巡航ミサイルはビルや鉄塔を避けながら高度100メートル前後の低空を飛行する。ドローンも同様だ。さらにドローンは速度が遅く、レーダーが追尾する際に必要な熱も出さない。いずれも、既存のレーダー網では捉えにくい。

     パトリオットのレーダーの視野角が120度と全方角をカバーできない点も今回の原因と指摘される。サウジは南の方角に位置するフーシなどからの攻撃に備えているため、今回のように「北の方角から飛来した」(米軍)ミサイルは見えない。さらに、サウジはリヤドや南部国境でフーシからの攻撃が相次いだ事態を受け、「パトリオットをペルシャ湾岸の油田地帯から、リヤドや軍事基地などに移転したため防御が手薄だった」との見方もある。

    「すべての戦略施設を、あらゆる種類の攻撃から守ることができる」。サウジが攻撃を受けた2日後の9月16日、トルコのアンカラで会見したロシアのプーチン大統領は、ロシアが誇る地対空ミサイルの購入をサウジに勧めた。イランはロシア製のS300、トルコはS400を購入、巡航ミサイルなどからの防御を固めている。サウジも17年にS400購入を表明したが、米国の邪魔立てで実現しない現状があり、S400を購入していれば、今回の惨事は防げたという主張だ。

     同席したイランのロウハニ大統領は「どちらを買い求めたらよいのか?」と笑いながら問い返すと、プーチン氏は「それはサウジに任せよう」と答えた。BMDだけに注力する米国の武器商法は、各国が抱える危機の現状にそぐわないと皮肉ったわけだ。

     今回の攻撃で最も得をしたのはロシアやカナダ、ブラジルなどの湾岸以外の産油国と言われる。サウジに次ぐ原油輸出国のロシアは、原油価格が1ドル上昇すれば、日額750万ドルの収入増を得る。ロシア最大の石油会社ロスネフチの株は9月16日の取引で前週末終値比5%高をつけた。

    (出所)米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の図を基に筆者作成 参照ウェブサイト:https://www.csis.org/analysis/irans-threat-saudi-critical-infrastructure-implications-us-iranian-escalation
    (出所)米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の図を基に筆者作成 参照ウェブサイト:https://www.csis.org/analysis/irans-threat-saudi-critical-infrastructure-implications-us-iranian-escalation

    射程には淡水化設備も

     二つめの教訓は、サウジには今回攻撃を受けた石油施設以外にも防御の薄い戦略拠点が数多くあるという点だ。ラスタヌラなどの石油積み出し港、淡水化施設などがペルシャ湾岸に集中する。

     今回使われた巡航ミサイルやドローンによる攻撃だけでなく、サイバー攻撃の対象にもなりかねず、これをどうやって守るかという新たな課題が浮上した。

     イランは、10年に米国とイスラエルが核施設に仕掛けたサイバー攻撃を機にサイバー軍を設立、その技術に磨きをかけている。16年以後にサウジ攻撃を開始したと言われ、油田やタンカーへの原油積み出し施設、淡水化施設、電力施設が攻撃対象になると見られる。

     米国は7月、イランとの緊張の高まりを受けてサウジに500人の米兵を派遣したのに続き、今回の事態を受けて増派を決めた。

     だが、オバマ前政権の8年間、国防次官、副長官などを歴任したカーター元米国防長官は自叙伝で「サウジは極めて少数の精鋭部隊を持つ一方で、空軍やミサイル防衛は脆弱」と指摘するなど弱点も多い。イランとの緊張がほぐれない限り、対応に苦慮する状況には変わりがなさそうだ。

    (会川晴之・毎日新聞前北米総局長)

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