NEWS 「史上最大」の株式公開 サウジアラムコが12月上場へ 巨額調達は「時間との勝負」=岩間剛一
サウジアラビアの国営石油企業サウジアラムコは11月3日、サウジ国内の証券取引所タダウルで株式の一部を公開すると発表した。今年12月にも上場する見通しで、現時点で3%分が公開されるとの見方が出ており、新規株式公開(IPO)の規模は600億ドル(約6兆6000億円)と史上最高になる可能性がある。
サウジの原油埋蔵量は世界第2位の2977億バレルを誇り、サウジアラムコはサウジの石油・天然ガス開発を独占。さらに、サウジの油田の原油生産コストは、1バレル=3~4ドル程度と、米国のシェール・オイル(同30~50ドル)と比較しても極めて高い競争力を持っており、サウジアラムコの企業価値は2兆ドル(約220兆円)とも評価される。
しかし、原油収入に依存するサウジ経済では新産業が育たないことなどから、改革派の旗手ムハンマド皇太子が経済構造改革「ビジョン2030」を打ち出し、サウジアラムコのIPOはその原資を得る目玉として2016年に発表。史上最大のIPOをめぐり、ニューヨークやロンドン、東京、香港などの証取がし烈な争奪戦を展開した。
情報開示は不十分
ただ、サウジアラムコのIPOは難航した。会社と王族との関係が不透明なことや原油埋蔵量など財務情報の開示が不十分で、ニューヨークなどの厳格な上場基準を満たさない。また、米国のテロ支援者制裁法により9・11同時多発テロの被害者がサウジに損害賠償を求め、サウジアラムコの株式価値を引き下げる可能性も浮上した。
そのため、国内での上場先行を決定したと考えられるが、サウジの株式市場でこれほど巨額の資金調達ができるのか、疑問は少なくない。さらに、ロシアなどOPEC(石油輸出国機構)非加盟国を加えた「OPECプラス」の協調減産にもかかわらず原油価格が上昇しないことも不安要因で、ESG(環境・社会・企業統治)投資など脱化石燃料の動きも広がっている。
一方、サウジアラムコが今年4月、初めて発行した120億ドル分の社債には、金利を求める投資家の買いが殺到。世界的に有望な投資先が少ない中で、サウジアラムコはなお魅力的な存在でもある。サウジアラムコのIPOの成功は、時間との勝負になりそうだ。
(岩間剛一・和光大学経済経営学部教授)