NEWS 米中の製造業指数 悪化に歯止め掛かる 半導体市況が底入れ=渡辺浩志
米サプライマネジメント協会(ISM)が11月1日に発表した10月の製造業景況感指数は48・3と、好不況の境目である50を3カ月連続で下回ったものの、9月の47・8からは上向き、加速度的な悪化には歯止めが掛かった。他方、財新・マークイットが発表した10月の中国製造業PMI(製造業の購買担当者調査)は51・7となり、今年6月を底に上昇に転じたことで底入れ感が出ている。世界景気の転換点は近付いているのだろうか。
世界の景況感を表すグローバル製造業PMIは昨年初から下を向いている(図)。主因は二つあり、第一に半導体サイクルの下降がある。半導体の需要はIT(情報技術)製品サイクルにしたがって、約2年の周期で上下してきた。図のように、2016年初〜17年末の上昇局面の後、18年初から下降局面が始まり、これが世界的な設備投資や貿易の減速を伴って世界景気を押し下げてきた。
第二の要因は、トランプ米大統領の政策である。貿易不均衡を巡る米中間の関税合戦は、世界貿易の萎縮を招いた。また、米中の技術覇権を巡る争いは、IT製品・サービスの国際的な供給網から中国を排除する動きとなり、半導体サイクルの調整をより深くした。しかし、半導体サイクルの下降局面は、そろそろ約2年の満期を迎える。来春からの第5世代移動通信システム(5G)の本格運用も手掛かりに、半導体サイクルは循環的な上昇局面に入ろうとしている。
利下げが景気浮揚へ
米大統領選まで残り1年となり、トランプ政権は株高による支持率上昇を狙い、対中融和にかじを切り始めた可能性がある。10月の米中通商協議はごく狭い範囲の部分合意で終わったが、トランプ氏は「完全合意の60%」を達成したと成果を強調する。10月の関税引き上げは見送りとなり、12月の制裁関税第4弾の延期にも期待が掛かる。
この間、米連邦準備制度理事会(FRB)は、トランプ政策による景気後退が起こらぬよう、今年7、9、10月と「予防的利下げ」を実施してきた。これが約半年の時差をもって、来年早々から米国の景気を押し上げていこう。
なお、現在、中国の景況感が回復しているのは、米中摩擦の激化に備え、中国当局が行ってきた拡張財政や金融緩和、並びに関税を相殺するような人民元安の容認などの効果と考えられる。米国でも、大統領選を前に拡張財政が行われる可能性がある。債務・歳出上限の時限的な停止、新たな超長期債の発行示唆、FRBへの利下げ圧力などは、その布石に見える。低所得者減税や老朽インフラの改修などであれば、民主党も反対はできないだろう。
このように、半導体サイクルは循環的に上向き、米中摩擦という構造的な重しは軽減しつつある。また、米中両国で経済政策の効果が出始め、トランプ政権は拡張財政にも手を広げる可能性がある。足元でみられる米中の企業景況感の改善は、世界景気への上向きの力が出そろってきたことを嗅ぎ取っているようだ。
(渡辺浩志・ソニーフィナンシャルホールディングス・シニアエコノミスト)