週刊エコノミスト Online 不動産コンサル長嶋修の一棟両断
インフレが迫る住宅ローン破綻/21
10月に消費税が10%へ引き上げられた。社会保障財源が拡充されたことで、財政の持続可能性が保たれるのか。政府のもくろみ通り、景気が上向いて緩やかなインフレが訪れるとき、不動産市場はどうなるだろうか。今回は不動産市場とインフレとの関係を考えてみよう。
景気上昇に伴うインフレによって日本経済が好転した場合の不動産市場は、比較的想像しやすい。まずは東京都心部のオフィス賃料が上昇し、販売価格も上昇する。価格上昇の波は都心部のマンションに波及していく。都心3区(中央、千代田、港)、5区(中央、千代田、港、新宿、渋谷)、そして23区から神奈川、埼玉、千葉へとゆるやかに価格上昇の波が広がる。やがて名古屋、大阪、福岡など都市部にもタイムラグを伴って波及していく。
では景気上昇を伴わないインフレの場合はどうだろうか。不動産は金などと同様、実物資産の代表だ。デフレ時には現金が強く、インフレ時には金や不動産など実物資産の価値が高まる。資源価格や食料の価格が上昇する状況下では実物資産である不動産価格も、理論上は上昇するはずである。
生活コストが上昇
しかし現在の日本において、不動産価格は下落するだろう。入居者の生活コスト上昇によって不動産取得能力が低下するからだ。景気は上昇していないので給与は上がらず、給与所得者の生活は苦しくなる。個人消費は減り、企業業績は悪化、賃貸物件の賃料にも売買物件の価格にも下落圧力が働く。
こうなるとマイホームは所得減少によるローン破綻が懸念される。賃料にも下落圧力が働くので収益物件では賃料収入の減少による経営破綻が発生するだろう。
さらに、実体のないインフレが金利上昇を伴えば、それは直接的に不動産価格の下落圧力となる。毎月の支払額が同じでも、金利が上昇した分、借りられる元本は減少し、収益物件・マイホームとも取得能力が低下するからだ。
変動金利でローンを借りている個人や収益物件のオーナーの破綻懸念も強まる。1997年のアジア通貨危機の際、韓国ではウォン安、金利上昇といった深刻な景気悪化によって、不動産を手放す人が急増。物件は余剰となり、不動産価格は大幅に下落した。
低金利政策のもと、住宅ローン金利は過去最低水準を更新する動きが相次いでいる。ジャパンネット銀行が変動金利を0・415%、ARUHIが全期間固定金利で0・43%(2019年10月現在)で提供している。
当初10年間は住宅ローン控除によって借入残高の1%が戻るため、住宅ローンは実質的にマイナス金利の状態だ。今のところ長期金利は、日銀の誘導目標水準であるゼロ%近傍に抑えられているが、これもいつまで続くかは分からない。
景気上昇を伴うインフレなのか、伴わないインフレなのか。判別することは容易ではないが、政策動向や金利動向は注視しておきたい。
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立