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秋の味覚が大ピンチ! 不漁サンマはどこへ行った?=具志堅浩二

サンマは食べられなくなるのか・・・・・・(HikoPhotography/Shutterstock.com)
サンマは食べられなくなるのか・・・・・・(HikoPhotography/Shutterstock.com)

 サンマが取れない。サンマ漁業者団体の全国さんま棒受網漁業協同組合(全さんま)がまとめた今年8~10月末までのサンマ漁獲量は2万299トン。前年同期(9万6788トン)のわずか2割だ(表)。

(出所)全国さんま棒受網漁業協同組合「さんま水揚げ状況」(2018年・19年対比)
(出所)全国さんま棒受網漁業協同組合「さんま水揚げ状況」(2018年・19年対比)

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 不漁を受け、各地のサンマ祭りの中には中止となるケースも現れた。「サンマ不漁は漁業者にとって死活問題。このままでは地元がさびれかねない」と訴えるのは、北海道東部、厚岸(あっけし)町にある厚岸漁業協同組合のさんま祭り担当者。同協組は9月14、15日に札幌市内のショッピングセンターなどで開催を予定していた「厚岸さんま祭り」を中止した。このイベントは、札幌付近の住民に厚岸のサンマをPRするのが狙い。「開催を28、29日に延期したが水揚げが少なく、中止せざるを得なかった」と担当者は残念がる。

 神奈川県の川崎市地方卸売市場南部市場も、9月14日に予定していた「さんま祭り」の開催を見送った。担当者は「不漁なのに、サンマを無料配布するイベントを開くのは印象が良くないと懸念する声もあった」と経緯を説明した。

 祭り自体は実施したが、企画を縮小・変更する例も。北海道東部の根室市で9月21、22日に行われた「根室さんま祭り」では、予定していたサンマのつかみ取り大会を中止。特価で提供する生サンマの箱売りも当日販売をやめ、予約販売に切り替えた。東京都目黒区の「目黒のさんま祭り」など、生サンマの代わりに冷凍サンマを使うところもあった。

 サンマの漁期は、遅くとも年末には終了する。水産庁の担当者は11月8日の段階で「今年は過去最低の漁獲量になる可能性がある」として、最も少ない1969年の6万3000トンを下回る可能性を口にした。

東の海域に多く

 なぜ、サンマが取れないのか。その説明に入る前に、まずはサンマの生態に触れておきたい。

 サンマが分布するのは、北太平洋の亜熱帯海域の北側から亜寒帯海域の南側にかけて。一年中産卵するが、主に冬の北太平洋の南側で盛んに行われる。ふ化した後、サンマは春から夏にかけて北上し、動物プランクトンを食べながら成長。秋から冬にかけて南下する。寿命は約2年とされており、翌年にもう一度ほぼ同じルートを回遊する。

(出所)水産庁「サンマの漁獲状況等について」を基に編集部作成
(出所)水産庁「サンマの漁獲状況等について」を基に編集部作成

 漁場は、このサンマが回遊する経路上に形成される。例年5月以降に北太平洋北側の公海に漁場ができ、7月以降は千島列島南沖のロシア水域へ、8~11月には北海道東部沖や三陸沖などの日本水域へと漁場が移るのが常だった(図1)。

(出所)水産庁「サンマ 北太平洋 資源評価結果」(2019年度)
(出所)水産庁「サンマ 北太平洋 資源評価結果」(2019年度)

 サンマの漁獲量を左右する主要因は、「資源量」と「回遊ルート」の2点。このうち、「資源量」は、水産研究・教育機構が毎年6~7月に行う資源調査によると、減少傾向にあるという(図2)。減少の理由は、現時点でまだ分かっていない。サンマは10~20年周期で増減を繰り返すとされ、現在は減少期だという説もある。

 乱獲を疑いたくなるが、東京海洋大学の勝川俊雄准教授(水産資源学)は「サンマの漁獲量は、資源量の10~20%台で割合としては少ない。サンマのように寿命が短く産卵数が多い魚は、資源量の30~40%を取っても影響は小さいと考えられるため、資源量が減った主要因とは考えづらい。自然現象が原因ではないか」と見る。台湾や中国ら諸外国の船による乱獲の影響を疑う説もあるが、同じ理由で否定する。

 ただ、「それでも資源量が減っているのは確か。このまま減り続ければ、漁獲量が資源量の減少に与える影響は大きくなるので、今のうちに漁獲量にブレーキをかける仕組みが必要」とも強調した。

 もう一つの「回遊ルート」だが、勝川准教授は「サンマは表面水温が12~18度の海域を好む魚。日本水域の表面水温が19度以上になると、この海域を避けて日本のより沖合を通って南下してしまう」として海の表面水温によって影響を受けると指摘する。

 では、今年は何が不漁の原因だったのか。水産研究・教育機構東北区水産研究所の宮本洋臣氏は、原因の一つに、やはり資源量の少なさを挙げた。例年、秋に日本沿岸へ回遊するサンマの多くは、東経150~160度付近の北太平洋からやってくるが、今年の調査では、この海域にほとんどサンマがいなかった。同機構の調査では、東経160度より東の方が、資源量が多いと推定された。この海域のサンマは、移動距離の長さもあって日本の沿岸にまで到達しにくく、漁場は沖合に形成される傾向にあると指摘する。

漁獲量の上限設定

 サンマの資源管理の動きも進んでいる。国内では1997年から漁獲量の上限値を定めるTAC(漁獲可能量)制度で管理するほか、国際的には、北太平洋の漁業管理を話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)で検討が行われている。

 今年7月のNPFC年次会合では、20年から北太平洋全体の漁獲上限を約55・6万トンとすることで合意した。漁獲上限の設定は今回が初。年次会合では17年、18年と日本から漁獲上限の設定を提案したが、中国などが反対したため、導入に至らなかった。

 年次会合前の今年4月、NPFCの小科学委員会が開かれ、各国のサンマ資源のデータを基に、資源管理の今後のあり方を検討した。水産庁の担当者は、この小科学委でサンマの資源量が減少傾向にあるなど、サンマ資源への科学的な見解が一致したのが大きかったと振り返る。会合後、小科学委はNPFCに対し、漁獲による資源量への影響を抑えるための新たな手段が必要、と勧告。これが上限設定に結びついた。

 もっとも、この上限値は大きすぎるとの批判もある。漁獲量合計がこの値を超えたのは、50年以降の68年間でわずか3回しかない。

 東京大学大学院の八木信行教授(漁業経済学)は「今回の合意がなければ制限なしに取れる状態が続いたので、漁獲上限の導入は一つの大きな成果。上限値が大きすぎる、という意見はもっともだが、来年以降、どう有効に機能させるかが重要」と今回の合意を評価する。

 NPFCの来年の会合では、漁獲量の国ごとの配分が検討される予定。八木教授は「漁獲上限や配分を決めても、各国が守らねば意味がない。また、密漁などの違反操業が行えないような仕組みづくりも必要」と、各国のルール順守が重要とした。

 資源管理の取り組みは進展しつつあるとはいえ、今期の不漁はほぼ確定的。冒頭で、厚岸漁協担当者の「漁業者にとって死活問題」という言葉通り、サンマ漁業者は厳しい年の瀬を迎えている。

千葉県の銚子漁港で11月になって初水揚げされた今年のサンマ。過去最も遅い水揚げとなった
千葉県の銚子漁港で11月になって初水揚げされた今年のサンマ。過去最も遅い水揚げとなった

船の大型化必要に?

 漁業者を支援するため、水産庁は10月2日、全国漁業共済組合連合会や日本政策金融公庫などの金融機関に対し、サンマ漁業者からの共済金支給や融資、借金の返済に関する相談には、可能な限り柔軟かつ速やかに対応するよう文書で要請した。これを受け、日本政策金融公庫は同日、サンマ漁業者向けの相談窓口を開設している。

 しかし今後も、サンマの資源量自体が少なく、日本近海で漁場が形成されにくい状態が続けば、日本のサンマ漁はどうなるのか。漁場を求めて、日本のEEZ(排他的経済水域)を越えて公海で操業するケースは増えているという。全さんまの大石浩平専務は「この状況が続けば、小型船(20トン未満)で操業する漁業者は、船を大型化しないと厳しいかもしれない」と案じる。

 今も、小型船は片道2日程度で行ける公海の漁場なら操業が可能だ。しかし、今年の漁期は当初、ロシア水域よりもはるか東、東経161度付近の海域で漁場が形成された。片道で3日以上、往復で1週間程度はかかるため、中型船(20~100トン未満)や大型船(100~200トン未満)は対応できても、小型船は操業できない状況だった。

 全さんま傘下で操業する小型船は、全体の4割弱の50隻強。ただ、小型船の漁業者がすぐさま大型化に踏み切る公算は小さい。大石専務は「サンマは10~20年周期で水揚げが増減する。再び日本近海に漁場が多く形成される時代が来れば、小型船のままでいい。来年、再来年の漁の状況を見ないと、大型化するか否かの判断は難しい」と話した。

 先が見通せなければ、事業の投資判断もままならない。そのためにもサンマの資源状況の把握、資源管理が求められている。

(具志堅浩二・ジャーナリスト)

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