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日産、多すぎる経営の“内憂外患” ゴーン氏逮捕から1年=河村靖史

    (出所)日産自動車決算資料より編集部作成
    (出所)日産自動車決算資料より編集部作成

     日産自動車の業績低迷に歯止めがかからない。2019年4~9月期連結業績は営業利益が前年同期比85・0%減の316億円と落ち込み、20年3月期通期の見通しの営業利益も1500億円と、前回予想から800億円も引き下げた(図1)。米国事業の低迷が響いているのに加え、主力市場である中国事業も先行き厳しい。カルロス・ゴーン前会長が昨年11月、金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕されてから1年。反転攻勢は容易ではない。

     さらに、連合(アライアンス)を組むルノー、三菱自動車の業績も低迷していることから経営統合問題が再燃し、グループ内の闘争に力が削(そ)がれる可能性もある。自動車各社が「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる先進技術への投資を拡大している中、3社連合はライバルに大きく後れを取ることも懸念されている。

     12月1日付で最高財務責任者(CFO)に就任する予定のスティーブン・マー常務執行役員は、19年4~9月期業績を発表する記者会見で「事業改革を着実に進めつつある。北米事業の再建は軌道に乗っており、製品の最適化なども計画通りに進捗(しんちょく)している」と、業績回復に自信を示した。日産の業績が悪化しているのは北米事業の収益悪化と、頼みである中国事業の伸び悩みが主因だ。

    (出所)日産自動車決算資料より 編集部作成
    (出所)日産自動車決算資料より 編集部作成

    値引き販売のツケ

     日産はゴーン前会長が進めてきた拡張戦略に沿ってグローバルで生産能力を増強してきた。工場稼働率を上げるためにとってきた施策が、新車販売の値引きの原資となる販売奨励金(インセンティブ)の積み増しだ。特に日産の経営の柱である米国事業は、開発コストの削減で新型車の投入が少なく、古いモデルの販売を促進するためインセンティブに頼った無理な販売を続けてきた。この結果、米国事業では利益率が大幅に低化し、ブランドの毀損(きそん)も招いた。

     ゴーン前会長を完全追放した日産は今年7月、世界14拠点での生産ライン停止などによる生産能力削減や、1万2500人規模の人員削減をする事業計画を策定。収益力を強化するため、米国事業の再建に向けてインセンティブの削減や、利益率の低いレンタカーなどのフリート(大口)販売の縮小に踏み切った。この影響から19年4~9月期の北米の販売台数は同6・9%減の87万7000台と不振だった。通期の見通しでも同4・2%減の171万台と落ち込む見込みだ(図2)。

     マー常務執行役員は、19年7~9月期の3カ月では「米国のインセンティブは前年を下回る水準で推移しており、販売会社の在庫も2万2000台削減して適正な水準になった。フリート比率は依然として高い水準だが、インセンティブは低下している」と、北米事業が改善していることを強調した。しかし、実態は異なる。米調査会社によると日産の4~9月期の1台当たり平均のインセンティブは増えており、トヨタ自動車やホンダなどの日系自動車メーカーと比較しても「相当高い水準」にある。

     マー常務執行役員は「シェアや台数は追求しない。販売の質を向上して持続的な成長を目指す」としているが、長年にわたって新型車を投入せずに、値引きに頼って販売台数を稼いできたツケが回っている状況だ。セダンの「セントラ」「ヴァーサ」といった新型車を投入して反転をもくろむも、米国市場はピックアップトラックとSUV(スポーツタイプ多目的車)の需要が拡大しており、市場が縮小する一方のセダンの新型車で巻き返しを図るのは厳しい。

    米国市場で苦戦が続く(米イリノイ州)(Bloomberg)
    米国市場で苦戦が続く(米イリノイ州)(Bloomberg)

    経営統合の問題再燃か

     業績に苦しんでいるのは日産だけではない。傘下の三菱自、アライアンスを組むルノーも業績が低迷している。三菱自の19年4~9月期連結業績は、北米や中国での販売減少や、研究開発費の増加などの影響で営業利益が同82%減の102億円と大幅減益となった。通期業績見通しも大幅下方修正し、当期利益は同96%減の50億円と赤字転落寸前で、日産と同様、20年中に人員削減によるリストラに乗り出すことを決めている。ルノーも19年1~6月期連結業績は、欧州での販売低迷や、日産の業績悪化の影響で純利益が同50・3%減の9億7000万ユーロ(約1170憶円)と半減している。

     日産は、自身の報酬に関する不正問題を受けて西川広人氏が9月に社長兼CEO(最高経営責任者)を事実上解任され、日産の指名委員会は内田誠専務執行役員を社長・CEOに昇格させることを決定し、就任日は20年1月1日を目指すとしていた。しかし、取締役会は業績悪化を目の当たりにして12月1日付の就任に前倒しを決定し、新体制による業績立て直しを急いでいる。

     この間、日産はゴーン前会長に近かった幹部らを一掃してきた。ルノーもゴーン前会長の右腕だったティエリー・ボロレCEOを解任した。ルノー・日産・三菱連合は、新しい経営陣が経営戦略を抜本的に見直し、成長に向けて大きくかじを切る意向だった。しかし、3社とも業績が大きく落ち込んでおり、その目算は狂いかねない。ルノーの業績低迷による経済の悪化を懸念するフランス政府が関与を強めて、ルノーと日産の経営統合問題が再燃するとの見方は強まっている。

     ルノーは企業規模の大きい日産に43・4%出資しているのに対して、日産のルノーへの出資比率は15%で議決権もなく、資本関係はいびつだ。ルノーの業績は、日産からの配当金も含めて日産の業績に大きく左右される。日産は19年度の年間配当金として当初、1株当たり40円を予定していたが、中間配当では10円に減配し、年間配当金は「未定」にした。ルノーは日産からの配当金減少で実入りが減ることに不満を抱くのは必至だ。

     また、ルノーは今年5月、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)から経営統合を打診され、交渉入りすることで合意した。しかし、経営統合にルノーの筆頭株主であるフランス政府が介入したのに加え、日産がルノーとFCAの経営統合に距離を置いていたこともあって、約2週間後にFCAは経営統合の提案を撤回した。ルノーはその後も、現在の3社連合では激化する競争を生き残れなくなるとの危機感から、FCAとの経営統合に向けて再交渉することに期待していた。

    (出所)各社資料より編集部作成
    (出所)各社資料より編集部作成

    再編加速する業界

     ところがFCAは10月31日、ルノーの身近なライバルで、しかも元ルノーのCOO(最高執行責任者)だったカルロス・タバレス氏がCEOを務める仏グループPSAと経営統合することで基本合意した。PSAは17年8月に米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下だった独オペルを買収するなど、拡大路線を突き進んでおり、FCAとの経営統合によって世界4位の自動車メーカーグループになる。

     業界再編が加速する中、FCAとの経営統合を断念せざるを得なくなったルノーのジャンドミニク・スナール会長が焦りから、日産との経営統合を再び求めてくる可能性もある。ただ、日産はルノーとの経営統合には否定的なだけでなく、現在のいびつな資本関係や、日産が保有するルノー株式に議決権がないことなどの見直しに意欲を見せており、新しい経営体制に移行しても両社の関係が再びぎくしゃくする可能性もある。

     FCAとPSAの経営統合や、トヨタ自動車がスズキと資本提携し、SUBARUへの出資比率を引き上げるなど、自動車業界の再編が加速しているのは、CASEといった自動車業界のトレンドに対応しなければ生き残れないと見ているためだ。これら先進技術に乗り遅れないためには多額の研究開発投資が必要で、自動車各社は「仲間づくり」で投資を分散するとともに、技術を共用化してCASE対応を急いでいる。

     日産は、1年間にわたってゴーン前会長の事件と、アライアンスを含めたその後始末に、多大な労力を費やし、業績も低迷したままで、CASE対応の面でも遅れている。ここで、アライアンスのごたごたが続くようなことになれば、さらにライバルと差がつくことは確実で、日産の経営課題は山積している。

    (河村靖史・ジャーナリスト)

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