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半端なマイナンバー普及策 選挙と連携した利用促進を=山崎文明

マイナンバーカードを投票所の入場券にすれば普及するはずだ
マイナンバーカードを投票所の入場券にすれば普及するはずだ

 政府は昨年12月、一般会計総額102兆円超と過去最大となる2020年度予算案を閣議決定した。1月の通常国会に提出され、3月末までの成立を目指す。

 景気下支え策として、19年度に引き続き1兆7788億円を計上。このうち、今年6月末まで実施するキャッシュレス決済に伴うポイント還元に2703億円を充て、今年9月に開始するマイナンバーカードを利用したポイント還元策にも2478億円を計上した。

 今回のポイント還元策には、「マイナンバーカードの普及」という大きな目的もある。16年に導入が始まったマイナンバー制度だが、マイナンバーカードの普及率は14・3%(19年11月1日現在)、1823万枚と低迷しており、当初目標として掲げていた19年3月末時点で8700万枚には、程遠い状況で、政府はカード普及に躍起だ。ポイント還元策は、マイナンバーカード保持者が別途発行される「マイキーID」とひも付いたキャッシュレス決済を行う場合に、事前チャージで25%のポイントを還元するという。

 ただ、今回のポイント還元策は、景気改善の面でも、マイナンバーカード普及の面でも効果を発揮するかは怪しい。

カード不更新の懸念

 実際、今回のポイント還元策は、景気対策としては不安がある。ポイント還元を受けるまでの手続きに「手間」がかかりすぎるという問題があるからだ。

 この「手間」は大きく三つある。(1)マイナンバーカードを持っていない人はポイント還元を受けられないので、カードを作らなければならない、(2)マイナンバーカードとは別に発行される「マイキーID」の発行手続きが分かりにくい、(3)決済事業者のシステム対応が必要──である。

 そもそも、マイナンバーカードを利用したポイント還元は、額が最大5000円と少ないのに、消費者が手間をいとわずポイント還元を利用するかは、はなはだ疑問である。しかも、業者のシステム対応には多額の予算が投じられることになるとみられる。

 他方、マイナンバーカード普及の面でも今回の政策は「中途半端」と言わざるを得ない。ポイント還元を利用しようと思う人が出てこなければ、そもそも普及は望めない。

 さらに今後、懸念される事象として、マイナンバーカードを更新しない人が続出するという問題だ。マイナンバーカードの有効期限は10年だが、カードに内蔵されている本人確認用の電子証明書は発行から5回目の誕生日に有効期限が切れるため16年にマイナンバーカードを作った人が必要ないと判断すれば、20年以降は更新しないことも十分に想定され、ますますカード保持者は減っていく。

 マイナンバーカードの普及政策を論じているのはデジタル・ガバメント閣僚会議と呼ばれる会議である。首相官邸で行われるこの会議は5回を数えるが、毎回20分程度で終了する形式だけの会議である。その会議で来年度の投資額が決まってしまうのだ。

 議題に上がる普及政策は、マイナンバーカードを利用した自治体ポイントによる消費活性化など枝葉末節な政策がほとんどで、運転免許証との統合などのように誰しもが、マイナンバーカードが普及するだろうと思う政策はない。

 抜本的な普及策を講じる必要がある。例えば、運転免許証と統合すれば、14年の運転免許保有者が8208万人であることから、ほぼ目標を達成できる。政府がこれに手をつけない理由は、本気で行政の合理化など考えていないか、利権が絡んでいるのかと思わせる。多額の税金を投入してまでマイナンバーカードの多目的利用を図るなどという目標を掲げる前に、その目的を一本に絞って、高い普及率を目指すべきだ。

 マイナンバーカードは公平・公正な社会の実現、国民の利便性の向上、行政の効率化を目的として始まった制度だ。その趣旨にのっとってマイナンバーカードを投票所入場券として活用することを提案したい。

 現在の投票制度では、郵送されてくる投票所入場券を持参すれば誰でもが投票できるため、不正選挙の可能性について常に疑念を持たれている。選挙不正の手口は多々あり、選挙の仕組みを根本的に精査する必要があるが、マイナンバーカードを利用して、いわゆる替え玉投票をなくすことも、公平・公正な選挙を実現する第一歩であり、民主主義の基本である。

 顔写真付きのマイナンバーカードの取得を義務付け、投票所の入り口で顔写真との照合を行い投票する制度に改めるのである。現在の制度では免許証や健康保険証で身元を確認する補完的な本人確認手続きさえ行われておらず、不正の温床になりやすい。初めは目視による本人確認から始め、将来的には顔認証による入場手続きとすればよい。本人確認を厳格化する意味でマイナンバーカードを活用するとしてカードの保有を義務化するとの大義があれば、大多数の賛同が得られるのではないか。18歳で有権者となったことを証明する意味で、マイナンバーカードを発行するのである。また、投票所入場券を郵送するコストも削減できることから行政の効率化にもつながる。

直接民主制

日本が見本とするエストニア(首都タリンと国民IDカードの見本)(Bloomberg)
日本が見本とするエストニア(首都タリンと国民IDカードの見本)(Bloomberg)

 日本政府がマイナンバーカードの模範としているのは、エストニアの電子政府システムだ。毎年、日本の国会議員たちが大勢エストニア詣でを繰り返している。電子政府システムの成功の基盤は、国民ID番号の普及である。エストニアでは病院で国民ID番号が割り当てられており、出生と同時に、ほぼ全ての国民に番号が割り当てられる仕組みになっている。

 エストニアが国民ID番号を普及させたのは、敵対する隣国ロシアのスパイ潜入対策が端緒である。しかし、同国の最終目標は「直接民主制の導入」だ。

 エストニアの電子政府構築にあたって、コンサルティングを担当したのはタリン工科大学の教授陣だ。彼らは筆者との面談の席で国民IDカードによる直接選挙の実現を目指していると語った。直接民主制とは国民自らが国家の意思に参加する民主制度。その点、エストニアは人口わずか132万人、有権者数100万人(19年)の小国で直接民主制が実現しやすい。

 現在の政党政治では、自分の考えに近い議員を選ばざるを得ないために、問題のある議員でも仕方なく選んでいるのが実情ではないだろうか。

 完全に自分の意思に一致した政党や議員が存在するという人は少ないだろう。インターネット投票できるようになれば法案一つ一つに意思表示ができるのだ。気軽に直接選挙ができるようになれば、国会議員の数も大幅に削減できる。インターネットが政治のあり方を一変させる可能性がある。

 議員を選ぶのではなく政策を選ぶことが民主主義の基本である。個別の法案に国民が直接、賛否を表明する仕組みができていれば、賢明な国民の総意としてマイナンバーカードで25%ポイント還元などという法案はおそらく通らないだろう。

(山崎文明・情報安全保障研究所首席研究員)

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