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編集長インタビュー 野崎明 住友金属鉱山社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝、東京都港区の本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝、東京都港区の本社で

電池正極材の原料生産で世界トップ級

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── リチウムイオン電池の材料事業が好調ですね。

野崎 米テスラの電気自動車(EV)に搭載されている電池には当社の正極材が使われています。当社がパナソニックに原料のニッケル酸リチウムを納入し、パナソニックが電池を製造してテスラに供給しているのです。電池材料は正極材、負極材、電解質に分類されますが、当社は以前から正極材の製造技術を持っていました。現在、ニッケル酸リチウムを月4550トン供給しており、世界でトップクラスの生産量です。

── 正極材の製造はどのように。

野崎 当社は日本で唯一のニッケル製造業者です。インドネシアとフィリピンに資源権益を持っていて、採掘した鉱石を製錬して中間原料に加工します。それを日本に持ってきて精製して正極材に加工するのです。上流から下流まですべての工程を持っている世界でも数少ない会社です。リチウムは外部から調達して、ニッケルと化合して製造します。ニッケルの製錬過程で副産物として出てくるコバルトも当社が日本で唯一の製造業者です。コバルトも正極材に使います。

── リチウムイオン以外の電池需要もあります。

野崎 トヨタ自動車のハイブリッド車プリウスに搭載されているニッケル水素電池には、当社が製造する正極材の水酸化ニッケルが使われています。自動車用以前は、電動工具の電池用にも当社の材料が使われていました。

── 電池材料の市場規模の見通しは。

野崎 電池材料の市場はまだ黎明(れいめい)期であり、今後も拡大することが確実です。中国や欧州で環境規制が厳しくなって、20年先くらいに電気自動車しか認めないと言われています。そうするとどうしても電池が必要です。今後の市場拡大に対応するために2019年度で月産約5000トンの正極材の生産規模を、25~27年度の3カ年中に1万トンに引き上げる計画です。

チリで銅鉱山権益取得

── 銅が昔からの中核事業です。

野崎 国内の非鉄金属各社が日本各地で採掘していた鉱山は、1960年代から70年代にかけて枯渇しました。当社の源流である別子銅山(愛媛県新居浜市)も73年に閉山しています。一方、製錬能力は残っていて、当社の東予工場(同県西条市と新居浜市)を生かすためにも新たな資源を海外に求めることが必要でした。00年以降、当社は鉱山資源の確保に集中的に取り組み、日本の非鉄金属会社では最大の海外権益を持っています。海外で産出した銅は日本に運んで製錬します。東予工場は規模と効率性で世界でもトップクラスです。

── どこに銅鉱山の権益を持っているのですか。

野崎 多いのは北米と南米、豪州です。新規開発では、19年3月にチリの「ケブラダ・ブランカ銅山」の権益を取得しました。年間約25万トンを採掘できる鉱山で、当社は25%の権益を持っているので6万トン分を引き取り可能です。当社全体として年間30万トン程度に銅の権益が増えることになります。

── 銅の需要見通しは

野崎 全世界で年間2200万~2300万トンですが、年率2~3%くらい伸びています。つまり毎年60万トンの新たな需要が発生しますが、その規模の銅鉱山は世界にほとんど存在しません。5000億~6000億円を投資しても、採掘できる鉱山は20万トン規模にすぎません。これが毎年3カ所ずつ出てこないと世界の需要増を賄うことができないのです。

── 21年度までの3年間で4900億円の設備投資と投融資を実行する計画です。資金の使途や手当ては?

野崎 ケブラダ・ブランカの銅開発やインドネシアでのニッケル開発に加えて、正極材の生産拡張などに充てる計画です。政府系の国際協力銀行による制度融資や、他の邦銀からの借り入れで資金手当ては十分に可能です。

国内最大の金鉱山も

── 国内では菱刈鉱山(鹿児島県伊佐市)で金を産出しています。

野崎 世界中の金鉱山から産出される金は年3500トンくらいで、菱刈は年6トンなので規模は大きくありません。しかし、普通の金鉱山なら鉱石1トン当たりの金の含有量は5グラム程度ですが、菱刈は30グラムの金を含有する品位の高さが特徴です。国内では佐渡金山(新潟県佐渡市)が有名ですが、佐渡金山の通算の産出量82トンに対して、菱刈はすでに240トンを超えています。あと160トンくらいは採掘可能とみています。

── 金相場が上昇しています。日本に新たな金鉱山の可能性は。

野崎 当社も新しい鉱山を徹底的に探しましたが、採算が合う鉱山があるかというと難しいですね。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 当社が出資した米アリゾナ州の銅鉱山にいました。外国人コンプレックスがなくなりました。今でもその人脈が残っています。

Q 愛読書は

A 高校生の時に買った『英文法解説』(江川泰一郎著)です。いま読んでも新鮮です。

Q 休日の過ごし方

A 25年くらい月に一度カイロプラクティックに通っています。ひどい腱鞘炎(けんしょうえん)が治りました。


 ■人物略歴

のざき・あきら

 1960年生まれ、東京都立小松川高校卒業、84年3月早稲田大学商学部卒業後、住友金属鉱山入社、2013年6月執行役員、16年6月常務執行役員を経て18年6月から現職。東京都出身。59歳。


事業内容:資源開発、非鉄金属製錬、機能性材料の製造販売

本社所在地:東京都港区

設立:1950年3月

資本金:932億円

従業員数:6776人(2019年3月末、連結)

業績(19年3月期、連結)

 売上高:9122億円

 税引き前利益:894億円

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