教養・歴史

韓国の不買運動はなぜいつも失敗するのか 澤田克己(毎日新聞外信部長)

 2019年の「徴用工問題」と「ホワイト国外し」に加え、書籍『反日種族主義』の大ヒットなど、日韓関係は大荒れの状態がつづいています。

「嫌韓」と「反日」の衝突はなぜ起きるのか。書籍『反日韓国という幻想』(澤田克己著、毎日新聞出版刊)より「反日不買運動の真実」についての箇所を抜粋しておとどけします。著者澤田克己氏は朝鮮半島の専門家で豊富な現地経験をもつ毎日新聞の外信部長です。

誤解だらけの日韓関係を読み解く

 韓国の進歩派団体が作った日本糾弾集会の案内チラシを見て、失礼ながら私はつい噴き出してしまった。

文在寅(ムンジェイン)政権の対日政策を批判する韓国の野党指導者や、元徴用工について「強制徴用ではなく自発的に募集に応じた人たちだ」とする安倍晋三首相らの発言と並べて、私の書いたコラムがやり玉にあげられていたからだ。

 2019年7月に発表された輸出規制強化に反発し、光復節(日本の敗戦によって植民地支配から解放された記念日)の8月15日に計画されたロウソク集会のチラシだ。

日本寄りだと決め付けて保守派攻撃に使われるようになった「土着倭寇」という新語を使い、「土着倭寇・本土倭寇連帯」を糾弾している。私は日本人だから、本土倭寇に該当するのだろう。

 私のコラムは、韓国での日本製品不買運動が過去25年間に一回も成功していないことを指摘するものだった。派手なパフォーマンスで、日本メディアも報じるものの、実体などない。だから結局は日本の世論に悪印象を与えて終わり、ということが過去何度も繰り返されてきた。

輸出規制強化に反発する中でも同じような動きが見られたので、騒ぎすぎず慎重に見極めた方がいいと考えて、過去の経緯を紹介したのだ。

 コラムで紹介したのは、外国産たばこの輸入が急増していた1995年、「新しい歴史教科書をつくる会」の中学校歴史教科書が問題となった2001年、島根県が「竹島の日」条例を制定した2005年、安倍政権が島根県での「竹島の日」式典に内閣府政務官を派遣した2013年、計4回の不買運動だ。

 1995年の件は日本と直接関係はないはずなのだが、植民地支配からの解放50年だったこともあって、日本を標的にしやすかったのだろう。外国産たばこの代表格としてマイルドセブンが狙い撃ちされた。

 私は、1995年以外の3回をソウルで取材していた。日本製品やブランドを大きな板に描いて生卵をぶつけるような派手なパフォーマンスをするから、カメラマンにとって「面白い」運動であることは間違いない。ただし、日本製品の売り上げが本当に落ちることなどなかった。

韓国の新聞記者や経済人の中には「よく書いてくれた。本当にその通りだ」と国際電話で感想をくれる人までいたのだが、当事者には不快だったらしい。韓国のネットには「今度こそ成功させよう」という書き込みさえあったそうだ。

2019年の不買運動は本物だった

 実際には、2019年夏の不買運動だけは違った。日本政府観光局によると、訪日韓国人の数は7月に前年同月比7・6%減、8月が同48%減、9月は同58・1%減と大きく落ち込み、韓国人観光客の比率が高い九州などの観光地では悲鳴が上がった。

 ユニクロや日本のビールといった日本製品の韓国での売り上げも急落し、韓国に増えていた日本式居酒屋や和食店も閑古鳥が鳴くありさまだった。

 成田、羽田、関西、中部を除いた日本の地方空港の国際線利用者数(2018年)は、日本人201万人に対して外国人835万人だった。そして2017年に訪日した外国人観光客の4分の1は韓国人だった。

日本の観光業界関係者は「東京では分からないかもしれないが、地方の観光業界の韓国への依存度はとても高い。特に韓国人客の比率が高い冬場の九州観光には打撃だ」と悲痛な表情を見せた。

 地方都市に就航しているのは、経営体力の弱い韓国のLCCが多い。観光業界関係者は「韓国LCCの地方路線には自治体から補助金が出ているものが多いが、いったん路線休止となったら補助金も削られる。

 今ある予算を維持するのはともかく、いったん削った補助金を復活させるのは財政難に苦しむ自治体にとって至難の業だ。それでも足となる航空路線がなければ、観光客は戻ってこない。便数減少でとどまっている間に、なんとか状況が好転してもらえないだろうか」と話していた。

 韓国では行きすぎた反日への批判も強まっており、不買運動だって長続きはしないだろうと話す人も多い。個人的に日本への嫌悪感を示す人が多いわけでもない。それでも日韓の外交的摩擦を打開する展望は見通せず、不買運動の影響も今度ばかりはどれくらい続くか予測が難しそうだ。

(2019年だけ不買運動が成功した理由等、より詳しい内容は、書籍『反日韓国という幻想』にて解説しています)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事