週刊エコノミスト Online2020年の経営者

編集長インタビュー 多田敏男 TAC社長

    Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都千代田区の本社で
    Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都千代田区の本社で

    新しい検定の創設で人材を育てる

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 「資格の学校TAC」として知られていますが、中核事業の個人教育事業は2019年3月期が営業赤字でした。

    多田 講座の規模が一番大きい公務員の受講者数が急激に落ちたことが要因です。好景気で就職率が良いときには公務員の希望者が減り、不況になると増える傾向があります。人手不足と好景気が続いているので、20年3月期も大きく落ちるかと心配しましたが、思ったほど落ちなかった。今が底でもう大きくは落ちないでしょう。公務員人気は底堅いと思います。

    ── 税理士や公認会計士はどうですか。

    多田 税理士は取得までに年数がかかる上、大学院に通って科目免除を受け、そのあとは独学で学ぶ人も多く、受講者数は減っています。一方で公認会計士は監査法人の採用が増え、受講者も急激に増えています。公務員の受講者が減少した分、会計士で補っている状況です。

    資格本が売れる

    ── 人口減少で受講生の確保は大変なのでは。

    多田 これまでほとんどが文系資格でしたが、18年に「第三種電気主任技術者試験(電験三種)」の講座を始めました。ビルや工場、商業施設などに設置されている電気設備の保守・監督を行うための国家資格です。受験者は年間約6万人います。中小の専門学校では開講していましたが、大手ではTACが先行して始めました。今後は理系の資格にも積極的に取り組んでいこうと思っています。

    ── ネットの時代になって、学校の教室で授業を受けるスタイルは変革を迫られているのでは。

    多田 確かに1教室に200人集まるような時代は、資格講座の収益性は高く、もうかりました。今は通学だけではなく、通信教育もネットもあり、教室に集まる人数が少なくなっています。校舎の設備など、固定費の負担が大きくなり採算が取りづらくなっています。ほとんどは賃貸ですが一部自社ビルも保有しており、教室面積の調整を行っています。

     とはいっても資格講座は事業の根幹で、19年3月期は赤字でしたが既に採算ベースに乗り始めています。ある程度の教室規模を維持しつつ、ネット講座でも合格率は変わらないような仕組みを作る必要があります。

    ── 資格対策の講座だけではなく法人研修も展開していますね。

    多田 企業向けにセミナーなどを展開しています。財務、税務、管理会計が多いですが、IT(情報技術)、情報処理などが増えてきました。

    ── 「世代間ギャップマネジメント」「仕事のミスを確実に減らす脳の使い方」などユニークな研修もあります。

    多田 企業と研修のメニューについて話すなかで、「こんな講座はできないか」「こんなことを教えられる人はいないか」と相談を受けるので、できる限り対応して商品化してきました。最近はコミュニケーションや営業スキルなどの研修ニーズが高まっています。

    ── 出版事業が7期連続の増収です。出版不況のなか好調の理由は。

    多田 資格本が売れています。もともと会計関係の本が強かったのですが、宅建(宅地建物取引士)やFP(ファイナンシャル・プランナー)など徐々に分野を広げています。書籍の中で実際に講師が授業をしている様子をどう表現するかを考え、レイアウトを板書形式にしたり、フルカラーで解説するなど分かりやすさを大切にしています。毎年のように改訂しており、年間500~600冊刊行しています。

     また、資格対策テキストだけではなく、旅行ガイドブックや一般書籍も作っています。

    ── 海外展開は

    多田 中国で日本の簿記を教えています。大連に現地法人と校舎があり土日は教室が満室になります。上海や北京にも検定試験の会場を設けています。

    ── なぜ中国人が日本の簿記を。

    多田 日本で働くため、あるいは中国の日系企業で働くために、学生から社会人まで数千人規模の需要があるのです。他にもIT系の講座や日本語検定も受けてもらい、日本で仕事をするための知識を身につけられる講座を展開しています。

    ── 今後の事業展開は。

    多田 17年に日本金融人材育成協会を設立して、「企業経営アドバイザー検定」を始めました。中小企業への助言や融資の審査に役に立つ資格が「中小企業診断士」ですが、難易度が比較的高い。そこで、もう少しハードルが低くて、財務や法務、経営についてのアドバイスができる人材の育成を目指して新たな資格を作りました。

     また、19年に「相続検定」「年金検定」も始めました。時代のニーズに応じた人材の育成に力を入れていきたいと思います。

    (構成=吉脇丈志・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A TACで法人事業の営業をしていました。30代後半に役員になり積極的に事業展開していました。

    Q 「好きな本」は

    A 半藤一利の『昭和史』です。どのように戦争が始まり、戦後いかにして発展を遂げるのかが面白いです。

    Q 休日の過ごし方

    A ゴルフです。付き合いもありやっていくうちに上達していました。


     ■人物略歴

    ただ・としお

     1953年生まれ。横浜緑ケ丘高校、慶応義塾大学法学部卒業。東京アカウンティング学院(現TAC)に公認会計士の資格取得のために通学し、84年同社入社。法人研修事業の立ち上げに携わり、90年取締役、2007年取締役副社長。18年から現職。神奈川県出身。66歳。


    事業内容:資格試験受験のための学校経営、出版など

    本社所在地:東京都千代田区

    設立:1980年12月

    資本金:9億4020万円

    従業員数:621人(2019年6月現在、連結)

    業績(19年3月期、連結)

     売上高:204億7400万円

     営業利益:3億4000万円

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