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編集長インタビュー 辻慎吾 森ビル社長

パネルは虎ノ門・麻布台プロジェクトの完成予想図 Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都港区の本社で
パネルは虎ノ門・麻布台プロジェクトの完成予想図 Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都港区の本社で

虎ノ門・麻布台で6000億円開発

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 昨年発表した東京都港区の虎ノ門・麻布台再開発事業では、高さ330メートルの日本一の高層ビル建設ばかりにマスコミが注目して、不満だったとか。

辻 大きく報道してもらってとてもありがたいと思っていますが、「あべのハルカス」(大阪市にある300メートルの高層ビル)と比較されてもちょっと違うかな、と(笑)。森ビルの街づくりに対する思いは皆さんに理解してもらえたと思っていますが、メディアの見出しがそうなるのは仕方ないですね。

── 特徴は何ですか。

辻 まず都心で8ヘクタールを超える規模の大きさです。他のエリアは大きくても2ヘクタール程度で、六本木ヒルズの11ヘクタールに匹敵する広さです。立地も正方形ではなく複雑な地形のうえ、高低差もあります。これまでの森ビルの中で一番難しいプロジェクトです。総事業費は約6000億円に上りました。過去のノウハウを生かしながら、ヒルズの未来形を実現できるプロジェクトだと思っています。

── 「未来形」とは具体的に。

辻 金融やIT(情報)企業が集まるようなオフィス立地の中心地に、グリーン・アンド・ウェルネス(健康)というコンセプトを取り入れています。敷地のうち2・4ヘクタールが緑地です。オフィス、住宅、ホテル、文化施設などが一体化したヒルズの街づくりのコンセプトに加えて、医療施設やインターナショナルスクールの開設も計画しています。医療に関わるウェルネスの部分を一生懸命やっていて、半年か1年後くらいには具体的なプランを発表できると思います。

── 近隣の虎ノ門ヒルズは、36階建ての新たなオフィス棟(ビジネスタワー)が4月に開業し、住宅棟も建設中です。

辻 ビジネスタワーは完成の1年以上前からテナントが満杯になりました。住宅棟は2021年竣工予定です。さらに、東京メトロ日比谷線の霞ケ関駅と神谷町駅の間に新設される虎ノ門ヒルズ駅の上にステーションタワーが23年に完成します。

 今はステーションタワーのテナントを募集していて、すでに決まっているところもあります。

借り入れは長期資金に

── 03年に開業した六本木ヒルズは、年月がたち、テナントの入れ替わりも激しいように見えます。

辻 店舗のリニューアル(改装)やテナントの入れ替えをして、街としての新しさを保つようにしています。商業施設の全体の売上高は8年連続で増収を達成し、今期(20年3月期)は過去最高を更新する見込みです。確かに開業当初に比べれば来場者数は減っていますが、オフィスの入居率は99%、美術館の来場者数は多く、ホテルの稼働率も高いです。六本木という立地は依然強いと思います。

── 有利子負債が1兆円近くあります。心配はありませんか。

辻 有利子負債が突出しているとは思っていません。借り入れは増えていますが、収益の伸びのほうが大きくなっています。自己資本比率は現在の25%程度は最低確保していきたいと思います。今は金利が低いので借入期間を長期に切り替えています。かつて3年間程度だった期間を現在は20年間にできます。

── 資金調達に重要な「格付け」の取得は日本の会社からだけですね。

辻 日本格付研究所(JCR)から格付けを得ています。08年の最初の格付けは「Aマイナス」で、それから2段階上がり、現在は「Aプラス」です。海外の格付け会社から格付けを取得しようという考えはありません。日本の不動産会社はローカルな商売です。ムーディーズやS&Pの格付けを持っていないと社債が発行できないというわけではありません。海外の分析は日本と捉え方が違い、日本より低い格付けになります。

── 海外事業への取り組みは。

辻 現在、インドネシアのジャカルタで58階建てのオフィスビルを建設中で、21年竣工予定です。中国の上海では、08年に101階建ての上海環球金融中心を建て、これまで一部の区分を売却してますが、自社で管理しています。賃料は上海で最も高くなっています。このほかにアジアで今後、成長性のある都市で数件、検討しています。手法は東京と同じで、自社で開発し、テナント企業を誘致します。既存のオフィスビルを売買するような投資活動はしていません。

── 不動産市況の見通しは。

辻 良い状態が続くと思います。日米の景気は好調でオフィスの供給も少ないためです。地価、オフィス価格は高くなり、都心ではオフィスビルのキャップレート(収益利回り)が2%台という低い水準のものもあります。これが普通とは思えませんが。弊社はマンションデベロッパーのように新たに土地を買って開発するのではなく、自社で保有する土地や再開発事業で建てるので、それは強みです。

(構成=桑子かつ代・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 表参道ヒルズと六本木ヒルズの開発に取り組みました。

Q 「好きな本」は

A 森稔の『ヒルズ 挑戦する都市』と、野村万之丞の『いい加減よい加減』です。

Q 休日の過ごし方

A 仕事のためのゴルフです。新しいレストランに行ったり、温泉に行ったりもします。


 ■人物略歴

つじ・しんご

 1960年生まれ。神奈川県立光陵高校、横浜国立大学大学院卒業。85年森ビル入社。東京都心の複数の大規模再開発事業を経て、六本木ヒルズでタウンマネジメントを担当。2006年取締役、09年副社長。11年から現職。広島県出身。59歳。


事業内容:都市再開発、不動産賃貸・管理、文化・芸術・タウンマネジメント

本社所在地:東京都港区

設立:1959年6月

資本金:795億円

従業員数:3415人(2019年3月末現在、連結)

業績(19年3月期、連結)

売上高:2461億円

営業利益:611億円

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