週刊エコノミスト Online挑戦者2020

松原秀樹 PGV社長/関谷毅 PGV脳波センサー発明者 脳波データに「本音」あり

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 人の「本音」は頭の中にある──。人は1日のうち、脳内で自分自身と4万回以上会話をするという。この脳内情報を見える化し、分析することでビジネスや医療に活用する。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=加藤結花・編集部)

伸縮性のあるパッチ式脳波センサー(PGV提供)
伸縮性のあるパッチ式脳波センサー(PGV提供)

 当社のパッチ式脳波センサーは冷却シートのようにおでこに貼るだけで、正確な脳波の測定を行うことができます。脳情報からは、感情や睡眠状態、健康状態など多くのことがわかるため、マーケティングや健康管理など多くの分野で役立ちます。期待も大きく、脳の情報を計測・活用する「ブレーンテック」の世界市場は2024年には5兆円規模に成長するともいわれています。

 しかし、脳の情報を正確に得るにはMRI(磁気共鳴画像化装置)やヘッドマウント型検査機といった大がかりな装置が必要で、被験者への負担が大きいことなどを理由に、脳波計の使用は睡眠障害やてんかんなど特定の疾患検査に限られていました。

 そもそも脳波の計測機器が大型なのは、脳波の信号が超微小で、測定が難しいことに由来します。心電や筋電と比べても3~4桁ほども小さな信号である脳波の測定では、少しのずれが大きな誤差を生んでしまいます。脳波を正確に計測するため、脳波計を頭にがっちりと固定し、脳波信号以外のノイズを与えないために従来の計測機器は大型化せざるを得なかったのです。

 しかし、当社のパッチ式脳波センサーはぐにゃぐにゃと曲がるフレキシブル(柔軟)な素材で、おでこにぴったりと密着できるので、ずれる心配がありません。大型の検査機器が不要で、誰でも簡単に着脱できるので、これまでハードルが高かった測定が気軽にできるようになりました。また、違和感なく装着できることにより、より平常の状態に近い脳波の計測が可能になったのも画期的な成果です。睡眠中の脳波の測定にも使えます。

一家に1台「脳波計」

 パッチ式脳波センサーは、フレキシブルな電子デバイスを研究する大阪大学(関谷毅教授)が開発。事業の将来性が高く評価され、大阪大学ベンチャーキャピタルやメガバンク、事業会社などの出資を受けて起業しました。

 現在の主力事業は、脳波データの測定・解析の受託ビジネスです。これは最近注目が高まっている「ニューロリサーチ」と呼ばれる脳波データを商品開発やマーケティングに活用する事業です。例えば、照明の色や温度が人にどのような影響を与えるのか──といったことを人がリラックスした状態のときに測定されるアルファ波の変化を観測することで検証します。当社は独自のAI(人工知能)解析技術を持っており、脳波データからその意味を「解釈」することができます。

 可能性を秘めた脳波データの活用ですが、私たちが特に大きな期待を寄せているのが、認知症の発見です。京都大学と行った研究では、健常者と認知症患者、さらには認知症の種類によって脳波の波形が異なり、脳波を計測することでこれらの分類ができる可能性が高いということが明らかになりました。

 今はまだ販売を行っていないパッチ式脳波センサーですが、今後さらに軽量小型化、ユーザビリティー向上などの改良を続け、将来的には体温計や体重計のように一家に1台置いてもらう未来を構想しています。脳の健康を管理することで、疾病の予防にもつなげる。社会的にも意義のある事業に育てていきたいです。


企業概要

事業内容:小型軽量、高精度の簡易型パッチ式脳波センサーの開発、AI(人工知能)を活用した脳波計測データの解析

本社所在地:東京都中央区

設立:2016年9月16日

資本金:5億4580万円(資本準備金を含む)

従業員数:23人(アルバイトを含む)


 ■人物略歴

まつばら・ひでき

 1964年埼玉県生まれ。95年カリフォルニア大学サンディエゴ校環太平洋地域研究大学院修士課程修了。IT企業にて事業企画・開発などを行う。その後、ライフサイエンスのベンチャーで事業管理などを経験。今年1月、PGVの社長に就任。


 ■人物略歴

せきたに・つよし

 1977年山口県生まれ。2003年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。14年大阪大学産業科学研究所教授に就任。センサーやフレキシブルな電子デバイスを研究する。高精度の簡易型パッチ式脳波センサーを開発した。

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