梶栗隆弘 エリー社長 おいしい蚕が食料危機を救う
蚕を原料とする「シルクフード」で、将来の食料不足の解決を目指す。その足がかりとして今年1月、東京・表参道に蚕を原料に使ったハンバーガーを提供する店舗を開いた。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=岡田英・編集部)
将来、蚕を食べるのが当たり前になるかもしれない──。そう思ってもらえるよう、蚕が持つナッツのような風味をおいしく感じられるようなハンバーガーをイタリアンのシェフと作りました。今年1月、表参道の屋台村「COMMUNE(コミューン)」内に期間限定で開いた店舗「シルクフードラボ」で販売しています。
蚕のさなぎをゆでてペーストにし、牛肉と50%ずつの比率で混ぜたパテを使っています。豆腐のような柔らかな食感と、ナッツのような風味が特徴です。お客へのアンケートでは8〜9割は「おいしい」と好評でした。他にも、蚕を原料に使ったスープ(ミネストローネ)、シフォンケーキ、パスタスナックも料理人の監修で作り、販売しています。
なぜ蚕なのか。世界の人口は増え続け、牛や豚、鳥、魚といった動物性たんぱくは不足し、必要な餌や水などもかさんで環境負荷が増えると懸念されています。解決の切り札として人工肉や昆虫食といった代替たんぱくが注目される中でも、蚕は高栄養価で、なおかつ養蚕業が盛んだった日本は品種改良や研究が進んでおり、日本ならではの昆虫食産業を作れると思ったんです。繭は製糸に使われる一方、さなぎは魚の餌に使われるくらいでコオロギやバッタよりも安く仕入れられるというメリットもあります。
でも普及するにはやはりおいしくないといけない。シルクフードラボで得たお客の反応・意見を基に、今夏にはコンビニエンスストアやスーパー向けのシルクフードを開発する予定です。
大学卒業後に食品原料メーカーに就職し、法人営業や量販店向けの商品開発に3年ほど携わりました。大豆たんぱくというハンバーグなどに混ぜて使う原料を取り扱う中で、将来の代替たんぱくの可能性の大きさを感じていました。ただ、当時の業界には新しいことに挑戦する風土がないと思い退社。資料作成、データ分析などを請け負う事業をしていました。
当時、東京・赤坂の8畳一間のマンションに友人3人で暮らしていたのですが、1人が母校・京都大学の研究成果を事業化するビジネスコンテストに応募すると言い出したんです。いくつかのアイデアの中に、昆虫食を将来の代替たんぱくにする案があり、「一緒にやろう」と数カ月にわたって計画を練りました。
蚕は最初は昆虫食の候補の一つに過ぎなかったのですが、蚕に詳しい専門家を訪ね、フレッシュな状態の蚕のさなぎをゆでて食べたら衝撃的においしかった。状態、加工の仕方でこんなにおいしくなるんだと分かり、「これなら絶対いける」と確信しました。結局、京大の食品や蚕の研究成果を組み合わせた案で優勝。それを基に2018年6月に創業しました。
世界的な企業に
製品開発には、キリンホールディングスや伊藤忠商事などのスタートアップ支援プログラムを活用し、大手の設備・施設を使えたのが大きく、資金調達でもその実績が役立ったと思います。
当面の目標はまず今夏に一般に流通するシルクフードを開発して販売し、おいしく作ればちゃんと市場があるんだと示したい。自分たちしか作れない品種や加工方法を開発し、最終的には原料を供給する世界規模のメーカーにしていきたいと思っています。
企業概要
事業内容:蚕を原料とした機能性昆虫食「シルクフード」の開発
本社所在地:東京都中野区
創業:2018年6月
資本金:600万円(20年2月1日現在)
従業員数:3人(役員)
■人物略歴
かじくり・たかひろ
1986年生まれ。福岡県宗像市出身。九州産業大学付属九州高校卒業。2010年法政大学社会学部卒業、食品原料メーカーの昭和産業に入社。法人営業や、量販店向けの商品開発を担当。18年6月、蚕を新たな代替たんぱく原料にすべく高校時代の友人と共同創業。33歳。