経済・企業挑戦者2020

大関興治 ブエナピンタ代表取締役 規格外の食材を加工し全国展開

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 捨てられる運命の農産物を活用して、食材を全国に提供し、飲食店と農家の課題解決を目指す。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=春日井章司・ジャーナリスト)

 私たちの仕事はIT(情報技術)を活用して利益率の悪い飲食店の問題を解決することです。核になっているのが、新鮮なのに形が悪いなどで廃棄される規格外の農産物を加工品として活用することで、割安でおいしい食材を提供し、飲食店の仕込みや調理の手間を減らし、年々高くなる人件費を抑えつつ料理の品質を上げるという発想です。

 徳島県鳴門市に設立した食材加工拠点「ザ・ナルト・ベース」では、地元の規格外食材を中心に開発した料理を、併設したレストランで提供しています。たとえば「鳴門金時ポテトサラダ」(600円)は、徳島県特産の鳴門金時というサツマイモの規格外品をペースト状にしたポテトサラダです。通常のジャガイモのポテトサラダとは違う味とほんのり甘みのある食感が好評の人気メニューです。

 またもう一つの特産ブランド、阿波金時豚も、ロースやもも肉など売れ筋の部位以外の肉をミンチにしてボリュームのある「阿波金時豚ハンバーグ」(1000円)を作りました。商品になりにくい、ある意味規格外的な部位ですが加工すれば味は同じ。レストランでは一番人気のメューになっています。

捨てられる鳴門金時が山のようにある
捨てられる鳴門金時が山のようにある

 規格外食材を知ったのは、仕事で徳島を訪れた時です。鳴門金時は甘くてホクホクとした食感で評判が高いブランド食材ですが、形や色が悪かったり、大きさが基準を満たしていなかったりしたものが、規格外とされ大量に廃棄されていると知り驚きました。鳴門金時芋は年間3万トン近く収穫されますが、一定割合で規格外が出ます。

 私はこれを現地で加工して活用し、ITを使って工夫すれば、食材コストの低減と同時に、飲食店での仕込み時間も削減できると確信し、会社を設立しました。

 ナルト・ベースは徳島県産の野菜、果物、魚介類を、規格外品を中心に加工・商品化して全国の飲食店や個人に販売しています。第1次産業者が第2次、第3次産業も取り込む、いわゆる6次産業化を支援する施設という位置づけです。

 鳴門は首都圏と比較すると土地代、人件費が安く、食材を保存するコストも安い。急速冷凍したポテトサラダやミンチになった金時豚などの加工食材は、短時間再加熱して調理するだけで、ナルト・ベースと同じものができあがります。

秋田にも進出

 大学を中退後、コンピューターのセールスエンジニアとして仕事をしていましたが、ITの時代が来ると確信し、1998年にITコンサルティングとシステム開発の会社を設立。また飲食業界にも魅力を感じており、2013年に神奈川県の江の島で海の家を開業しました。夏限定の小さな店でしたが、自社で培ったIT技術を使い、その後、運営ノウハウも研究し、席の予約から料理の注文、売り上げ、従業員の管理までスマホでできるシステムを開発し、製品化しました。

 今後は、鳴門で培った仕組みをパッケージにして、全国に拡大する予定です。すでに秋田県ではナルト・ベースと連携した「ザ・アキタ・ベース」を設立し、秋田の豚肉や果物などを使った食材を提供しています。また、企業が社食代わりに月単位で社員に食事を提供するサービスとして、総菜やスープ、デザートなどのメニューを50食単位で冷凍して配達する「オフィスデリ」をこの春から始める予定です。


企業概要

事業内容:食材の加工、レストランの運営

本社所在地:徳島県鳴門市

設立:2016年5月

資本金:6000万円

従業員数:社員6人 アルバイト50人


 ■人物略歴

おおぜき・こうじ

 1969年東京都生まれ。大学中退後、セールスエンジアとしてコンピューター会社に就職。98年にインターネットを活用した企業コンサルティングとシステム開発の会社セカンドファクトリーを設立。2016年徳島県鳴門市にブエナピンタを設立し、食材加工とレストランを併設した施設「ザ・ナルト・ベース」を開業した。

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