歴史が示唆するウイルス禍後の反動増=藻谷俊介
このコラムで前回(2月4日号)は、中国の5G需要にけん引される形で日本の生産サイクルに上向き傾向が見られることから、「景気のアップサイド(上振れ)も考える必要がある」と述べた。ところが、まさにその直後から、新型コロナウイルスへの感染が急拡大。世界経済の回復シナリオの中心にあるべき中国経済が揺らいだことで、再びダウンサイド(下振れ)を論ずる報道が目立ち始めている。
困ったことに、中国では行政の混乱によって統計の発表にも滞りが見られ、2月7日に発表される予定だった1月の貿易統計が2週間を経てもまだ出ていない。だが、日本や韓国の1月の対中輸出を見ると、季節調整後の数値はいずれも前月比マイナスだった(図)。
今年は春節の休みが1月に集中したため、何もしなければ1月の数値は非常に悪くなるが、当社では春節の効果を統計的に補正して打ち消している。それでも図には若干のマイナスが残っている。特定はできないが、ウイルス禍による悪化の要素が含まれている可能性がある。
しかし、事態をそこまで恐れるべきなのだろうか。日本ではもう何週間もテレビニュースが新型コロナウイルスの報道で埋め尽くされる状態が続いており、このままでいけば国内消費にも影響を及ぼしかねない。ところが、欧米のテレビでは話題の一つに過ぎない。
1月の対中輸出は減
ここで注目したいのは、図の矢印で示した部分だ。2003年、SARS(重症急性呼吸器症候群)の流行によって香港・中国に半年近い期間にわたって混乱が生じた時期だ。時間差を超えてインパクトを直接比較できるように、図は対数表示にしている。確かに当時は3~6月にかけて日韓ともに対中輸出が減退している。とはいえ、それは一時的なものであり、その前後で巨視的な流れが変わっているようには思えない。
もちろん、新型コロナウイルスはSARSより致死率は低いが感染力は大きく、すでに死者数は倍以上になっている。中国とのサプライチェーンも当時より発達しているはずだから、今回も、ここから先は、03年より大きめの調整になる可能性はあると、筆者も覚悟している。
だとしても、一時的な需要低減であれば、その後は必ず反動増がある。悲惨なことやとっぴなことがあっても、ホモ・エコノミクス(合理的経済人)には止まることなく生じた問題を回避すべく工夫する性質があり、システムは比較的短期間に新たな均衡点にたどり着く。物流が滞れば、大急ぎで他のルートが開拓される。生産も可能な限り代替される。つまり引き算ばかりではなく、足し算もあるということである。
ニュースは武漢周辺の隔離によって部品が調達できなくなった日本企業を報道するが、武漢の人口は中国全体の130分の1であり、中国から部品を調達する企業全体で見れば影響を受けなかった企業の方が多数派であろう。また、影響を受けた企業も、諦めて待つばかりではないだろう。
犠牲者もいる中で不謹慎な発言は避けたいが、統計の一時的悪化はあっても乗り越えられていくということを、過去の経験が教えてくれている。
(藻谷俊介、スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役)