大阪ルポ コロナで消えたインバウンド 様変わりする黒門市場=水上守
3月中旬、長く訪日観光客(インバウンド)でごったがえしていた大阪市浪速区の繁華街、新世界の人影はまばらだった。「なにわのシンボル」として、この街を見守り続けてきた通天閣にも異変が起きている。
タワー型の建物のため、インバウンドでにぎわうようになってからはエレベーター前の行列が当たり前だったが、この日は待ち時間なし。同乗したのも20代のカップル1組だった。大阪の景色が360度展望できる上階でも、家族連れに欧米系のカップル、数人の大学生と館内はガラガラ。
2月の入場者数は前年比79%の7万4373人。昨年1万5162人が訪れた中国人観光客は8281人に半減した。日本人客も1万人以上減った。
通天閣観光の高井隆光社長は当面の間の休業も検討したが「ここを閉めると街全体が死んでしまう」という地元の声に押され、営業時間を短縮しながらも、従来通り午後11時までライトを点灯し、街を照らす。
売り上げ5割減
「大阪ミナミの台所」として名高い黒門市場(大阪市中央区)の日常風景も様変わりしている。インバウンドがイートインスペースで肉をほおばったり、串に刺したフルーツをカップに入れて食べ歩く姿はほぼ消えた。いろいろなものが食べ歩きできる「食の体験」を提供していた黒門市場だけに影響は大きい。調理場を狭めてまで作った食品店のイートインコーナーや大小合わせて11店舗と乱立するドラッグストアの客はまばらだ。
黒門市場商店街振興組合の山本善規理事長は「当初は(全体の客足は)2割から3割減少といった状況だった。(インバウンドが黒門市場では)団体客ではなく個人客になっていたので、よそより影響が出るのが遅かったが状況は悪化し、現在は8割減」と話す。
東京商工リサーチ関西支社が3月13日に発表した近畿版「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査によると、近畿2府4県に本社を置く企業で、すでに影響が出ているとした1155社の内、61.8%の企業が2月の売り上げが前年同月を下回ったと回答。中小企業(資本金1億円未満および個人企業)に限定すれば、2月の売り上げが前年同月より2割以上減った企業が15.6%(160社)、半分未満となったのが2.3%(24件)だった。
同情報部の藤本真吾氏は「BtoC企業を中心に資金繰りが急速に悪化している企業が多いが、今後の見通しが不透明な状況で返済が必要な融資には抵抗感が強い。手続きを簡潔にした補助金の制度化なども併せてスピーディーに対応していく必要がある」と指摘する。
(水上守・ジャーナリスト)