インバウンド 中国客40万人減が景気冷やす=横山渉/編集部
新型コロナウイルスの感染拡大により中国政府は1月27日から中国からの海外団体旅行を禁じた。これにより、日本旅行業協会の推計では3月末までに日本国内への中国人旅行客の予約が約40万人分キャンセルとなる見通しだ。
全日空の中国線の予約数は2~3月、日本発・中国発ともに前年比7割減となっており、日本航空では2月16日まで週98便運航していたが、17日以降は週38便に減らした。昨年の中国からの観光客は959万4300人で、全体の30%を占めており、中国人観光客の減少は、インバウンド(訪日外国人)需要が成長戦略の一つである日本経済にとって大きな打撃だ。
内閣府が発表した1月の景気ウオッチャー調査で、先行き判断DI(季節調整値)を地域別に見ると、下落幅が最も大きかったのは北海道で、2番目が沖縄、3番目が近畿だった。いずれも中国人を中心に、外国人観光客が多く訪れる地域だ。
北海道庁経済部観光局の試算では2~3月だけで最低でも200億円の観光収入の減少が見込まれるという。担当者は「中国人観光客は年間の40%が冬季(1~3月)なので、スキー関連客が来ないのは大きい」と話す。
沖縄県観光振興課の担当者は、「昨年の外国人旅行客が約300万人で、そのうち中国本土からの観光客は70万人弱なので影響は大きい。県内で感染者を出さないことが一番大事で、今は感染予防に努めている」と述べている。
京都市の観光名所・錦市場の漬物店では現状についてこう話す。「ホテルや飲食店に漬物を納めているが、そうした得意先でキャンセルがひどくなっている。冬は閑散期なので客が減るのは仕方ないが、繁忙期になる春もこの状態が続くかどうか心配だ」。
政府は2月14日の閣議で、緊急対策のために2019年度予算の予備費から103億円の支出を決めた。検査キットや抗ウイルス薬の開発支援など当面の水際対策が柱だ。観光庁観光産業課の担当者は「資金繰りに困っているという宿泊施設やバス事業者などが出始めているので、特別相談室を設置し、政府系金融機関のセーフティーネット貸付制度の要件を緩和するなどしている」と説明している。
GDP2・5兆円減も
新型肺炎による日本経済への打撃について、複数のシンクタンクが数値を発表している。りそな総合研究所では、2~5月の訪日客消費の減少は全国で6244億円に達すると試算。野村総合研究所は同日時点で、インバウンド関連で7760億円の落ち込みを予測した。
野村総研のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は、「7760億円というのは新型肺炎の流行が数カ月で終息することを前提にしたもっとも現実的なシナリオ。今回、03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)のときと同程度の割合で訪日観光客数が減少しても、日本経済に与える打撃は間違いなく大きい。中国人観光客数は02年から19年の間に21・2倍にも増加したからだ」と指摘。その上で、「もし、この流行が1年間続けば、今年のGDPは2兆4750億円(0・45%相当)も押し下げられる計算だ」と警告する。
(横山渉・ジャーナリスト)
(編集部)