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中国海軍の「領海侵犯」は本当に「フェイント」だったのか=立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
有事にはあらゆるリソースを挑発「恐るべき国防動員法」
多くのスポーツの技には防御を崩す手段としてフェイントがあります。格闘技でも球技でもフェイントは有効手段です。
フェイントとはある行為の際に、通常向けられると予測される目線と異なる目線を使用することで、相手をだます方法です。
例えば、サッカーでパスを出す時はパスの受け手の位置を確認する必要があるため、目線をそちらに合わせる必要があります。
受け手の方は、その目線をヒントにパスが出される方向を予測し、パスカットなどの動作準備を行いますが、その裏をつくため、行為の成功率が高くなるというものです。
このフェイントという手法はスポーツだけでなく、私たちの実世界でも知らず知らずのうちに経験しているのです。
日本では国民が1つのニュースや事件に目を奪われている隙に、どさくさに紛れて議論に時間のかかる法案を通してしまうことが多々あります。この手法は正にフェイントプレーで日本政府の常套手段です。
東日本大震災時には、消費増税、TPP参加の議論が加速。2019年の西日本豪雨の最中には、水道を民営化する改正水道法が可決、などなど枚挙にいとまがありません。
コロナ禍の最中に日本へフェイントをかける中国
さて、今回の本題はそこではないのです。
日本国民は日本政府にフェイントを掛けられていますが、その日本政府は中国にフェイントを掛けられてしまっているのです。
3月10日に世界一のスピードで新型コロナウイルスの「終息宣言」を行った中国は世界127カ国に物資支援の送付や医療チームの派遣を行っています。最近よく使われている「マスク外交」という言葉はその一つです。
世界中が新型コロナウイルスの封じ込めに集中し目線がコロナに釘付けの中、次のような事態が進行しています。
(1)中国は4/18に南シナ海各諸島を管轄する自治体として海南省三沙市に西沙区と南沙区を設立しました。
その地域の地下には水産資源、石油、天然ガスなどのエネルギー資源が豊富に存在していますが、領有権問題もありほとんどが未開発なので中国からすれば宝の山なのです。
そして中国は海底地形の80箇所を命名することで日本近海において活発化させている命名競争で先んじようとしているのです。
地政学的に大陸国家である中国は歴史上前例のない海洋国家にもなることを目指しています。つまり中国は三沙市近辺の領海という海洋戦略の要衝で、軍事的活動の強化と並行し、命名に向けた強引な海洋調査を加速させているのです。
(2)中国の日本領海侵犯が現在多発しています。
2/5 沖縄・尖閣諸島の南小島沖で中国海警局所属の公船「海警」4隻が領海に侵入。
3/18 ミサイル駆逐艦など4隻が宮古海峡を通過。
4/8 中国海警局の「海警」4隻が約1時間40分にわたり、日本の領海に侵入し航行。
4/11 中国海軍の空母「遼寧」やミサイル駆逐艦など6隻の艦隊は宮古海峡を通り、西太平洋に進出。
4/17 沖縄県の尖閣諸島の沖合で、中国海警局の船4隻がおよそ2時間にわたって日本の領海に侵入。
4/28 再び宮古海峡を通って東シナ海に戻る。この海域を中国空母が往復するのは初。
5/9 尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海に侵入。
(3)中国の領空侵犯も多発しています。
中国爆撃機が宮古海峡上空を通過するなど日本周辺で領空侵犯の恐れがある飛行がコロナ禍の最中に繰り返し発生しています。
因みに、昨年4~12月の航空自衛隊によるスクランブル発進の回数が742回で、国別で見ると、中国機向けが523回のトップで発進回数の約70%が中国機向けでした。
中国は「火事場泥棒」に成功するのか
以上ご説明した中国の一連の行動は何を意味するのでしょうか?
1つの説明としては、新型コロナウイルスの感染対策に各国が追われているうちに、それに乗じて中国は南シナ海の実効支配を強めようと動いているという事です。
もう1つは新型コロナウイルス禍という危機に際して、日本が緊急事態宣言下でどれだけ国家防衛力の行使ができる国なのかを中国に試されているという事です。
東日本大震災時、救援活動をしていた時も領空侵犯があって自衛隊はスクランブル発進をかけていました。
3月11日の東北地方太平洋沿岸500kmに渡る東日本大震災で自衛隊が、大津波に襲われた被災者の救援と行方不明者の捜索をしている真っ只中、中国、ロシア、韓国が日本の領土を脅かす行動に出ていました。
また中国とロシアは偵察飛行や挑発を繰り返しており、被災地支援に10万人を投入している自衛隊は、苦しい“二正面作戦”を強いられていました。
彼らの行動の背景として次のようなことが考えられます。
(1)被災者支援活動で戦力が半減している航空自衛隊の対処能力の調査
(2)被災者救出支援にあたる日米共同対応を偵察する目的
(3)日本政府の混乱に乗じた尖閣諸島や竹島の実効支配の足固め
このように国民や国家が緊急時などで目線が一点に集中している時は、リスク管理上、極めて重要なタイミングで油断をしてはいけないという認識を持たなければいけません。フェイントプレーで、所謂「火事場泥棒」的な動きをする国家や政府、或いは企業が存在することを決して忘れてはなりません。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。
投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic