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「投資の神様」バフェットの「最強」投資戦略からコロナ禍への対処法を考える=立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
バフェットの「最強」投資理念とは何か
まず、バフェットの投資理念の分析から始めたいと思います。
バフェットの投資理念には4つの「核」があります。
(1) 安全域=Margin of Safety を確保する
(2) モート(堀)=優位性を持つ投資案件に投資する
(3) 集中投資で資産を築く
(4) 長期投資で複利の力を活用する
それぞれについてご説明しますと、
(1) 「安全域」=Margin of Safety を確保する
投資資産をより安く買うという事を意味します。
不動産などの実物資産であれば、購入価格と市場価格との差が安全域になります。
株式であれば企業の内在的な価値( 企業の解散価値と成長期待値 ) と市場価格の差を利用して利益を得るということです。つまり、購入資産の仕入単価をできるだけ低く抑える努力をすることで、将来に損失する確率を限りなく減らすのです。
(2) 「モート」(堀)=優位性を持つ投資案件に投資する
城を守る為には堀が必要です。広い堀を備えた城を見れば、競争相手は攻撃をあきらめざるを得ません。同様に、本当に素晴らしい投資案件には高い利益を守る「堀」が存在しているものです。
不動産で言えば、保有不動産の近隣で鉄道が敷かれたり、地域開発が行われていたりすると、不動産にはない優位性を持つことになります。そして、企業で言えば、自社に特許がある場合や、規制等で当該業界への参入障壁があって、競合他社が簡単に真似の出来ないビジネス環境下にいれば優位性を持つと言えます。
つまり、投資先を決定するにあたり、10年、20年、50年という長い期間を想定し、投資不動産の価値が上がるようなインフラ整備や開発が行われるのか? 人々が欲しいと思う物やサービスを提供し競争優位を確保できる企業なのか? という点こそ検証すべきなのです。
私たちは無意識のうちに「我流」に走り、短期的に少しでも上手くいっている時期があると我を過信してしまう傾向にあります。そうではなく、私は成功した人から「技」を学ぶことこそが最も合理的且つ効率的な成功方法だと信じています。
(3)「集中投資」で資産を築く
バフェット率いるバークシャー・ハサウェイはあまりに規模が大きいですが、シンプルに集中投資を行っています。
昨年末の彼らの保有株式は、1位アップルと2位バンク・オブ・アメリカで40%以上、3位コカコーラ、4位アメリカンエキスプレス、5位ウェルズ・ファーゴ銀行までのトップ5で67.4%ものシェアがあります。
バフェットは「分散とは無知に対するリスク回避だ」と考えており、彼のポートフォリオは集中投資が基本と言えます。
(4) 「長期投資」で複利の力を活用する
バフェットは1965年から2015年までの毎年その資産を19.2%ずつ増加させました。
年率19.2%ずつ毎年資産を増やし続けた場合、保有資産額は
5年後…2.41倍
10年後…5.79倍
20年後…33.54倍
30年後…194.22倍
40年後…1124.74倍
50年後…6513.48倍
になるのです。バフェットは10年間株を持ち続ける気持ちがないならその株を買うべきでないと言っています。
そして彼は、最低でも10年は保有を継続しなければいけないと考えています。何故なら、10年未満の投資では複利マジックが十分に機能しないためです。
20年と10年の投資効果の違いは上の例でも分かりますように、約5.8倍も違うのですからその差は歴然としています。つまり、50年間で保有資産を6500倍以上にしたバフェットにとって、株の理想の保有期間は“永遠”だと言えるのです。因みに100年は永遠ではないですが、100年間平均19.2%の複利運用が出来れば元手の42,425,360倍になるのですから。
Amazonのジェフ・ベゾスCEOは、バフェットに「何故みんなあなたの投資戦略を真似しないのですか?」と質問しました。その時バフェットは答えました。「ゆっくりと金持ちになりたい人なんか何処にも居ないよ。」と。複利マジックで資産を10倍、100倍、1000倍と増やせることを理解していたとしても、多くの人は、それに掛かる時間を我慢できないのです。
そして時間という有効資産を利用せず、ついつい目先の利益に振り回されて非効率な投資や投機を行ってしまうのです。但し、これが成立する条件は投資資産の価格形成が右肩上がりである事です。右肩下がりや横這いの価格形成の資産にいくら投資しても複利効果で資産を増やすことは出来ません。
以上を踏まえて本題に入ります。
なぜバフェットは航空株を手放したのでしょうか?
バフェットが航空会社株を全て売却したのはかなり画期的な事件といって良いでしょう。
2008年リーマン・ショックの際、株式市場が大暴落劇を演じている時、米国有名投資家で唯一彼は、「米国株は絶好の買い場」だと宣言し買い向かいました。長期投資家のバフェットからすれば暴落時は企業の内在的な価値と市場価格の差が最も大きくなるタイミングだからです。俗に言うPBRが急降下する瞬間とでも言いましょうか。
私は昨年中にバフェットが資産を次々と売却し、彼のポートフォリオの現金比率を15%程まで上げていることに気付きました。それはあたかも最高値更新を続けている米国株市場がそう遅くないうちに息切れし、下降するのを手ぐすねを引いて待っているようでした。
そして、今回の新型コロナウイルスショックが到来しました。正に、バフェットの思惑がドンピシャで的中し、安価で彼の欲しい株式を購入できるタイミングが到来したかのように見えました。ダウ平均株価は29,551ドルから一気に18,591ドルまで急落し、ほぼ4年前のレベルまで戻したのですから。
しかしながら、バフェットの取った行動は真逆でした。このどん底近辺で航空会社銘柄の株式を、購入ではなく全放出したのです。そして過去最大となる約14兆6500億円もの手元資金(現金)が積み上がっているにもかかわらず、「買いたい企業(株)がない」と言っているのです。
また彼が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ社は本年第1四半期で過去最大の約5兆円の赤字を計上しました。
これが何を意味するかですが、
① 世界を震撼させる疫病は過去500年間で100年毎に5回発生し、多くの死者を出しました。今回の新型コロナウイルスは89歳のバフェットにとっても初めての経験であり、彼の経験値では予測不可能な領域に世の中が達してしまったことを示唆しています。
② 新型コロナウイルスショックにより、人間の行動形態が劇的に変化することが確実視されたというとです。
③ バフェットは、上記の「株の理想の保有期間は“永遠”だ。」が投資理念なので、第1四半期で大きな赤字が発生したことに一喜一憂する必要はないです。米国株式市場が30%以上急落してしまったので、保有株式の評価損が膨れてしまうのは止むを得ない。これは実損ではなくあくまでも評価損ですから。そして2020年第1四半期は “永遠”の途中駅にすぎないからです。
バフェットはアフターコロナをどう見ているのでしょうか
ブラックマンデーやリーマンショックはあくまでも金融市場発の危機であって、世界中の人々が外出禁止令や都市封鎖で消費や労働の制限を強制的に受けることはありませんでした。
今回の新型コロナ危機では、それにより、人間の行動形態がアフターコロナ時に、ビフォーコロナと同様の状態には戻れない確率が非常に高くなっています。
新型コロナショックの影響でリモートワークが急激に脚光を浴び、十分な成果を上げられることが検証されつつあります。そしてビジネス上、これまでのような移動の必要性が低減する可能性が高くなりました。
バフェットが 「3~4年後に、昨年までのように飛行機に乗るようになるのか見通せない」と言う悲観的な発言をしたのはこれに起因していると思われます。
バフェットには多くの名言がありますが、金持ちになるためには2つのルールを守りなさいと言っています。
ルール1は絶対にお金を損しないこと、そしてルール2は絶対にルール1を忘れないこと。
彼は今回、このルールを遵守し、投資ポートフォリオ全体が毀損しないように航空機株の売却という行動を敢えて行ったと解釈すべきでしょう。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長。HSBC証券を史上初めて黒字化した金融スペシャリストである。
活躍は金融業界に止まらず、一人の日本国民として臆さずに日本の問題点を鋭く斬る。
投資家サロンで優秀な投資家を多数育成しており、京都橘大学客員教授、会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。
投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic